「無痛分娩」で母親の重い合併症が減ると判明、硬膜外麻酔が妊婦の命を救うかも
なぜ麻酔が出産のリスクを減らすのか
硬膜外麻酔が合併症を減らす理由のひとつはおそらく、母親のストレス反応が緩和され、「ストレスホルモンの濃度や血圧、心拍数が低下する」ためだと、カーンズ氏は説明する。また、心血管系や呼吸器系の生理的な負担が改善されることで、「基礎疾患や、まだ診断されていない疾患のある人への重要な保護」につながると、ザコウスキー氏は言う。 また、「お産では予測できない事態が起こるため、もし緊急の帝王切開が必要になった場合でも、(局所麻酔である)硬膜外麻酔を施していれば、全身麻酔によって起こり得る合併症や、母体や赤ん坊への悪影響を防げます」と、米ニューヨーク大学ランゴン病院の産婦人科主任ミリーン・チュアン氏は言う。 さらに、特に長時間に及ぶ出産では、麻酔は母親に休息をとって活力を取り戻す機会を与え、結果として帝王切開をせずに済むこともある。硬膜外麻酔のおかげで、「数時間から場合によっては数日間も続く苦しみに、より耐えられるようになるのです」と、米MUSCヘルス大学医療センターの産科麻酔科医デビッド・ガットマン氏は言う。 硬膜外麻酔はこのようにして、出産に臨む母親が経験するトラウマの軽減にも役立つ。出産による痛みは産後うつの発生率とも関連が示されている。
充実したケアがプラスに?
今回の研究は、世界中でより多くの人々が適切な医療を受けられるようにすることの重要性も示している。 「硬膜外麻酔でストレスが軽くなったおかげで良い結果がもたらされた可能性はありますが、おそらくは麻酔科医が医療チームの一員にいたことが、重要な意味を持っていたのではないでしょうか」と、米ハーバード大学医学部の医師で麻酔学研究者のフィリップ・ヘス氏は言う。なお、氏は今回の研究には関与していない。 出産を見守る目が増えることや、麻酔医が持つ救急救命の技術は特に役立つだろうと、氏は指摘する。さらには、硬膜外麻酔を提供できる病院には通常、多くの合併症を予防・発見できる診断機器やモニタリング機器が備わっている。 カーンズ氏もまた、そうした外的要因が、今回の研究結果で大きくプラスに働いた可能性がある点に同意している。さらに、硬膜外麻酔を受ける女性は、出産中に追加の水分や薬を点滴される可能性がより高いとも述べている。 「われわれのデータにおいて、硬膜外麻酔の直接的な効果を、それに伴う一連のケアによる効果から完全に切り離すことはできません。なぜなら、硬膜外麻酔による出産では、好ましくない出来事に対処する能力を高めるべく、その女性に提供されるケアが変わるからです」とカーンズ氏は言う。