「踊る大捜査線」遠山俊也、森下は“僕の恩人” ライバル・緒方がいなければ「生き残れなかった」
度肝抜かれた連ドラ最終話
27年間で思い出深いシーンはどこなのか。「室井さんときりたんぽ鍋を食べる約束を交わすやりとりと、それを引っ張った『敗れざる者』でのシーンを別格とすれば、第9話冒頭のビルから飛び降りようとする青年(つぶやきシロー)を止めようとしている一連のシーンです。未来に大きく羽ばたけ、いや羽ばたいちゃダメだとか、勝手にアドリブで言っていたんですけど、あれは本来、甲本ちゃんの役だったんです。僕の別のシーンとテレコ(入れ替え)になった。珍しいし楽しかったのでよく覚えています」 さらに「連ドラ最終話の最後のほうで、お店の全員が捜査員で、銃を出したところも印象深いです。台本読んでいたはずなのに、あれは度肝抜かれました」と思い返した。「でも、そもそも連ドラの湾岸署のセットもすごかったんです。フジテレビがお台場に移って最初のドラマで、天井のある広いセットを組んで。気合入っているなドラマだな、一役者としても頑張らないとなと思いました」と語る。通常、ドラマのセットは照明や機材の関係で天井はつけないのだが、カメラワークなどを自在にしたいという意向で湾岸署には天井があったのだ。
森下は前述の約束があるため室井にあこがれているが、同時に「現場の人間として青島さんを敬愛していました。演じる織田さんは、ものすごく熱心な役者さんでした」と証言。「『踊る』は撮影が長くて、役者さんの中には、朝、入ってきた瞬間に『今日は何時に終わるかな』って(笑)。それは俳優としても人間としてもふつうの感覚なんです。でも織田さんは『早く帰りたいですか? 僕はずっと現場にいたいです』『現場、楽しくてしょうがないです』って本当に心からおっしゃっていました。後にも先にも、そんなことを言う役者は、僕の知る限り、織田さんだけです」と明かした。
森下は“恩人”、「踊る大捜査線」は“財産”
なぜ「踊る」がこんなにも人々から愛されたのか。「やはり、細かい部分を大事にして、ファンの方に楽しんでいただけているからじゃないでしょうか? 『踊る』は昔から、ものすごく熱心なファンの方がたくさんいらっしゃいます。僕はネットとかぜんぜんわからなかったけど、君塚(良一・脚本)さんや本広監督はそれをちゃんと先取りして、そこで応援してくださる方々を大事にしていました。いまもそうですよね。当時すごく驚いたのは、ネットでエキストラさんを募集すると何百人、何千人と来てくださるんです。いまならネットの力のすごさもわかりますが、あの頃はぜんぜん。『え、みなさんギャラ無しなの!?』って(笑)」と笑う。「しかも、みなさん暴走しないで、ちゃんと作品を壊さないいい仕事をしてくださる。すごいことですよね」と感心していた。 「『踊る』がなかったら、僕は役者をやり続けられていたか、わからないです」と遠山は断言する。「フジテレビのプロデューサーさんで、室井さんとのきりたんぽのシーンで僕のことを知ってくれて、それ以降ずっと作品に呼んでくださった方がいました。『踊る』に出ていましたよね、とあちこちで言われましたしね。森下を演じていなかったら、僕のことを知っている方はいまの100分の1しかいなかったと思います。森下は僕の恩人であり、『踊る』は僕の財産です」としみじみ語る。「ただ、僕が『踊る』ってこうだよな、こうなったらいいなとか考えても、それは1つも反映されないし、100倍も200倍も超えてくる。だからもう『踊る』には何も期待しません(笑)」ときっぱり。「でも、たとえば僕らがみんなじいさんになっても、違う新しい人が『踊る』を継いで、物語が続いていったらカッコいいなと思っています。タイトルは変わらずに、つながれていくんです。そんな作品、なかなかないでしょ?」と笑い、「もちろん、遠い将来の話ですけど」と付け加えた。(取材・文:早川あゆみ)
『室井慎次 敗れざる者』全国公開中 『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)全国公開