首謀者が逮捕されても、「地面師詐欺」事件の全貌解明とはならず…犯行グループの”半分以上”が「お咎めなし」だった驚きの理由
Netflixドラマで話題に火が点き、もはや国民的関心事となっている「地面師」。あの人気番組「金スマ(金曜日のスマイルたちへ)」や「アンビリ(奇跡体験!アンビリバボー)」でも地面師特集が放映され、講談社文庫『地面師』の著者である森功氏がゲスト出演した。同書はすべて事実を書いたノンフィクションであり、ネトフリドラマの主要な参考文献となっている。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 不動産のプロですらコロッと騙されるのだから、私たち一般人が地面師に目をつけられたらひとたまりもない。そのリスクを回避するためには、フィクションであるドラマよりも、地面師の実際の手口が詳細に書かれた森氏のノンフィクションを読むほうが参考になるだろう。 地面師たちはどうやって不動産を騙し取るのか。森功著『地面師』より、抜粋してお届けしよう。 『地面師』連載第64回 『「捜査当局がグズグズしているから新たな被害が…」“地面師詐欺”被害者救済のために奮闘する“大物ヤメ検弁護士”の「苦悩」』より続く
事件の全容解明は難しい
警視庁管内で地面師詐欺が横行しているとはいえ、犯行を組み立てることのできるような頭の切れる地面師は、さほど多いわけではない。むしろ同じ犯人がいくつもの事件にかかわっているケースがほとんどだ。だからこそ、一つの事件を迅速に捜査すれば、被害は最小限に抑えられる。逆に事件を放置すれば、被害が広がるのである。 「亀野が動いた事件でいえば、武蔵野警察署に届けられた高円寺の土地取引もあり、売り主さんが亀野を信用して全部の書類を預けちゃった。手付金として3000万円払い込まれ、残金がまだなのに、亀野やその仲間が転売してしまった。それで彼らは武蔵野警察署に訴えられたけど、いざ訴えられると、返済する意思があると言いだし、それも事件にならなかった。僕のときも彼らは1000万円返すと言っていた。似たような構図なんです」 5億円詐欺事件の被害者である津波はそう悔しがる。 「事件から数ヵ月、僕は必死で犯人を追いかけました。振込先となった大阪のセキュファンドには3回も出向き、留守番を名乗る人物にも会った。言ってみればその人間も一味でしょう。留守番から免許証も見せてもらい、姓名も確認した。それでも警察は動かない。本当に絶望的でした。毎夜12時頃まで、銀行から借りた5億円の穴をどうやって埋め、銀行に返せばいいか、考えあぐねました。会社で所有していた物件を片っ端から売って、生命保険や土地などをすべて担保に入れ、別会社で借り入れて返しましたけど……」 事件発生以来、2年半、文字どおり不眠不休で資金繰りに駆けずり回り、凌いできたのだという。 世田谷の事件では、幸いにも16年春、東京地検立川支部に特捜部で鳴らした経験のある検事が赴任した。さすがに特捜検事だけあって、事件の筋読みができる。また元特捜部長の大鶴にとっての後輩にあたるので、話を通しやすかったのかもしれない。そこから捜査が動き始めた。さらに一年半を経て、17年12月の逮捕にこぎ着けたのは、これまで書いてきた通りだ。だが、事件捜査は全容を解明したというにはほど遠い。