「俺も…」シニアモデル業界活況、面接を受けるも高額の「入所費用」が必要だった【65歳アルバイトの現実】
【65歳アルバイトの現実】#29 シニアモデル編 ◇ ◇ ◇ 「シニアモデル募集」──の広告をネットで見て、「俺もできるかな」と興味を抱いた人もいるに違いない。私も同じ。「テレビのバラエティーに出られるかも」と淡い夢を抱いて、ある芸能事務所に応募した。 【シリーズ初回はこちら】第二の人生に選んだ「ラブホ清掃員」は体力勝負 厳しさに来なくなる人も… 面接は都内のオシャレな一等地にある事務所。100インチほどの液晶テレビが据えられ、パイプ椅子が並んでいる。私のほかに70歳前後の男性と、50代らしき女性が座っていた。 定刻になり、女性スタッフの佐山さん(仮名)が仕事の説明を始めた。説明によると、いま50歳以上のシニアモデルは空前の需要があり、この会社には90代の男性も登録。「シニアモデルの市場規模は100兆円」だという。 10分ほどで説明が終わると、モニター画面に数本のCM映像が映し出された。いずれもこの会社のシニアモデルが出演したもので有名企業ばかり。「この方が当社所属のタレントさんです」と佐山さんが解説する。 約20分のモニター説明が終わり、再び佐山さんの話。 「合格となれば、入所費用をお支払いいただくことになります。その料金にレッスン料も含まれています」 なるほど。タダではタレントになれないのだ。 個別の面接が始まった。別室に呼ばれ、床に描かれた「×」印の上に立つと1枚の紙を渡された。ワープロ打ちの「こんにちは。久しぶりですねぇ」というセリフを読むよう指示される。私は演劇の経験は皆無で、人前でセリフを読むのは小学校の学芸会以来だ。日常会話の要領で読んでみたところ、佐山さんは「とてもお上手。声も魅力的です。本当に初めてですか?」とべた褒めだ。 彼女によると50代、60代になり「未知の分野に挑戦したい」「自分を表現したい」という応募者が多いそうだ。 「きちんとセリフをしゃべってお仕事を続けられるかどうかは、初めてお会いしたときの雰囲気で分かります」 この仕事に向いているのはコミュニケーション能力にたけ、物事をポジティブに考えられる人とのこと。「初めてですが頑張ります!」とチャレンジ精神を発揮する人がクライアントに歓迎されるそうだ。 CMなどに起用してもらうにはオーディションを受けるが、その際の交通費は原則として自己負担。エキストラの場合、出演料は数千円。それでも喜んで出演する人がいるという。 レッスン料込みの入所費用の金額を聞いたが「個人の力量に応じて違います。合格してからお伝えします」とはぐらかされてしまった。 市場が100兆円というのは、シニアモデルがCM出演する健康器具や薬品などの市場規模を合算した数字だ。100兆円が全国のシニアモデルたちに分配されるわけではない。 現在この事務所に登録しているシニアのタレントは400人。 「その中に年間に100万円とか200万円稼ぐ人はいますか?」と質問すると、「え~っと……そうですねえ……。100%いないとは言い切れません。まあ、一獲千金を狙うよりも地道に仕事をこなしていただければと……」。 佐山さんの答えは歯切れが悪い。100万円プレーヤーはいないようだ。 というわけで、あれこれ質問したせいか、私に「合格」の通知は届かなかった。 気になるのは入所時の費用。後日ネットで調べたら、他社のサイトに「初期費用は30万円」と書かれていた。30万円払っても、ギャラは数千~数万円だろう。それでも「俺はタレントだ」と自己満足に浸れるなら安い買い物かもしれない。 =つづく (林山翔平)