トランプ2.0、強気の「MAGA」が逆目に出る時
<2期目の経済政策で金利が上昇すれば、アメリカで大規模な不況が起きかねない>
トランプ2.0(第2期政権)で、筆者は「怖いもの見たさ」の心境だ。アメリカは、世界は、そして日本はどうなってしまうのだろう? 【動画】潜伏する北朝鮮の高官を「狙い撃ち」...ロシア司令部にミサイル直撃、建物が吹き飛ぶ瞬間映像 トランプが米経済復活のために提案するのは規制緩和、法人税引き下げ、そして国内の産業を守るための関税引き上げ、アメリカ人の雇用を守るための不法移住者追放等々。これらは、うまくいくのか。 では、トランプ1.0(第1期政権)の実績はどうだったか。最後はコロナでひどい目に遭っているが、2017~19年の3年間でGDP(名目)は14.5%伸びている。これは直前のオバマ政権の最後の3年間(14~16年)の11.3%に比べるとましだが、バイデン政権の21~23年の29.8%には遠く及ばない。トランプ1.0は、法人税を4割も切り下げて21%にしたが、その効果はバイデン政権が収めたということになる。 不法移住者の追放だが、国境で追い返した分を含めるとトランプ1.0では93万人強。やり方の違いがあるので一概に言えないが、オバマ時代よりむしろ少なめだった。一方、合法的な移住者は入れていて、トランプ1.0の合計は約330万。オバマ時代とそれほど変わらない。 トランプは18年3月から一部の中国産品への関税率を上げ始め、19~20年にかけて、中国の対米輸出と対米貿易黒字は5分の1程度減少している。一方、対中関税の引き上げは、米国内のインフレを激化させてはいない。つまりトランプが実際にやったことは、言うほどひどくはなかったのだ。
<市場が心配するのは金利動向>
今回、市場が一番心配しているのは、金利動向だ。トランプが法人税を下げれば政府歳入は減り、財政赤字が膨らんで、国債増発が必要となる。これは将来の利払い費の膨張を生むだけではない。当面、国内の資本市場を圧迫して金利の上昇をもたらす。金利が上がるとローンなどの返済が滞り、金融メカニズムに目詰まりが生ずる。08年のリーマン危機のように、それが引き金となって大規模な不況が起きかねない。トランプは「MAGA」を目指して、米経済をかえって縮小させてしまうのだ。 ■「ビットコインで債務縮小」の危険 これに輪をかけて、トランプ周辺では今、「政府がビットコインを大量に買い取って、準備金として積み上げる」という案が浮上している。狙いは、ビットコインの値上がりで政府の財産を膨らませよう、GDP1年分以上にも累積した国債の負担を和らげようということにあるのだろう。 これは1720年、イギリスの南海会社バブル事件を彷彿させる。この時のイギリスも、度重なる戦争の費用を賄うため国債の発行が重なって、財政の負担となっていた。そこにロバート・ナイトという食わせ者が、東インド会社のカリブ海版である「南海会社」の株で国債を引き取る、つまり政府が利子を払う必要のない株で資金を手当てする、という案を仕掛けた。これで南海会社の株は一時暴騰するが、ねずみ講的バブルであることがばれて暴落し、この株に投機していた王室までがスキャンダルに巻き込まれる。
<起こりうるドル暴落のシナリオ>
今のアメリカの場合、ビットコインの話が本格化すれば、「国債累積の問題はそれほどひどいのか」とドル不信が高まり、ドルが暴落するかもしれない。そうなれば、アメリカは海外に大軍を置いておく余裕がなくなるだろう。西ローマ帝国は地方の大地主層からの納税が止まった時、辺境の軍隊の保持ができなくなって、短期間で崩壊している。 トランプ2.0は、アメリカを強くしようとして、かえって米主導の世界体制を破壊する危険性を秘めている。
河東哲夫(外交アナリスト)