港求めるエチオピアから読む中東・アフリカ地政学
この解説記事は、エチオピアがソマリランドとの間でアデン湾に臨む海岸地帯を租借する合意を取り付けたことが、ソマリアや他の諸国の反発を招き、ただでさえ脆弱な同地域の更なる不安定化を招く恐れがあるとして警鐘を鳴らすものである 1993年のエリトリアの独立以来、内陸国となったエチオピアが海への出口を確保することは国家的願望であった。現在貿易港としてジブチに全面的に依存しているにもかかわらず、今回の合意を求めたのは、ジブチ港の使用料の問題もあろうが、海軍を復活させ地域の影響力を高めたいとの強い意図があったためと思われる。 ソマリランドの租借地の対価は、何よりもソマリランドの国家承認の可能性である。これまで台湾を別として国際社会で国家承認している国はなく、ソマリアとしては認め難いことであろう。 このエチオピアの野心の背後には、エチオピアを盟友としてまた、地域の代理勢力として位置付けているUAEの存在があるとみられている。 湾岸アラブ諸国やトルコは、米国が中東への関与を低下させるのに応じて、独自の地域外交を展開し始め、また、ポスト石油時代を展望してアフリカ諸国への投資を活発化させてきた。今回のエチオピアのソマリランド租借問題も単にエチオピア・ソマリア二国間問題としてだけではなく、そのような地域特有の地政学的枠組みの中でその意味や影響を見定める必要があろう。 アラブの春を契機にムスリム同胞団が発言力を強めたこともあり、その後の中東地域の内戦に域内主要国がさまざまな形で介入を行うようになったが、基本的には、イランやシーア派とスンニー派のムスリム同胞団に対する警戒感を軸に、サウジ、UAE、エジプト3国が問題に応じてトルコ、カタール、イランに対抗するといった構図が見られた。リビア内戦やイエメン内戦をめぐる介入が典型的である。また、ムスリム同胞団との関係を理由にサウジ等3国にバーレンも参加してカタールと断交し、他方UAEのイスラエルとの関係正常化を最も辛辣に非難したのはイランとトルコであった。