日本人選手1位指名で注目 米プロサッカーはなぜドラフト制度を採用?
サッカーとドラフトは“相性”が悪い?
メリーランド州立大学の遠藤翼選手が、日本人初の1位指名を受けたことで話題を呼んだMLSスーパードラフトは、全米大学体育協会(NCAA)に加盟する大学のサッカー部に所属する選手が対象となります。遠藤選手のような「留学生」もドラフトで指名されることも珍しくありません。ヨーロッパの有名クラブの下部組織出身の留学生もいるくらいです。 ボストン・グローブ紙でサッカー担当記者として1990年イタリア大会から7大会連続でワールドカップを取材し、現在もESPNなどのスポーツメディアで活躍するジャーナリストのフランク・デラッパ氏は、トロントFCが1位指名した遠藤選手について、「フィジカルの強さが売りのアメリカ人ミッドフィルダーとは異なり、テクニックで勝負できる興味深い人材」と評価したうえで、ドラフトがサッカーというスポーツに適しているのかは疑問だと語ります。 「MLSのスーパードラフトは、すでに成功例が存在する国内のメジャースポーツを参考に作られましたが、アメリカ人で若くして才能を評価された人材の多くは、海外クラブか国内クラブのアカデミー(ユースチーム)に入団します。 そのため、トップレベルのアメリカ人若手選手が、大学生をターゲットにしたスーパードラフトで指名されるケースはそれほど多くありません。クラブ間の戦力の均衡化を目的に作られたドラフトですが、サッカーの場合は大学に入学する前にすでにキャリア形成の選択肢が存在し、クラブ側もアカデミーを使って有力選手の囲い込みを行うため、均衡化という目的が果たせているのかは疑問です」
他にもある米国の“ガラパゴス制度”
加えて、MLSにはサラリーキャップ制度が存在します。本来はチームの戦力均衡を図るために作られたもので、2015年の年俸総額は1チームにつき約350万ドル(約4億円)。チームは最大で28人を選手登録することができます。4億円のチーム年俸総額は、J1のクラブと比較しても、決して高いものではありません。ヨーロッパのトップリーグで活躍するスター選手1人分の年俸すら捻出できない額です。 しかし、そのヨーロッパで活躍したスター選手がキャリアの晩年にアメリカを選ぶのはもはや珍しい話ではなく、現在は元ブラジル代表のカカや、元イングランド代表のスティーブン・ジェラードにフランク・ランパード、元イタリア代表のアンドレア・ピルロもアメリカでプレーしています。遠藤選手と同じトロントFCでプレーするセバスティアン・ジョビンコ選手にいたっては、MLSでの高パフォーマンスが注目され、イタリア代表に復帰しています(MLSでのプレー期間中にイタリア代表に召集されたのは、彼が初となります)。昨シーズンのランパードの年俸は600万ドル。カカとジョビンコは700万ドル以上のサラリーを手にしています。サラリーキャップの上限をはるかに超える金額を1人のスター選手が手にできる理由。それは特別指定選手制度にあります。 約350万ドルのサラリーキャップ制度が敷かれたMLSですが、年俸に上限を設けずに獲得できる「特別指定選手枠(DP)」が各クラブに2枠まで認められています。これは2007年にデービッド・ベッカム氏がMLSのロサンゼルス・ギャラクシーに移籍したのをきっかけに作られた制度で、これまでサラリーキャップの存在によってスター選手を獲得できなかったMLSの動きを大きく変えました。加えて、特別選手指定枠はクラブ間で選手や金銭による「トレード」が可能で、最大で3枠まで使用することが可能です。ピルロ選手がプレーするニューヨーク・シティFCでは、彼以外にもランパード選手や元スペイン代表のダビド・ビジャ選手が特別指定選手としてプレーしていますが、この3人の年俸合計は約1400万ドルになります。