日本人選手1位指名で注目 米プロサッカーはなぜドラフト制度を採用?
先月行われた米MLS(メジャーリーグ・サッカー)の2016年度スーパードラフトで、米東部のメリーランド州立大学でサッカー部の中心選手として活躍する22歳の遠藤翼選手がトロントFCから1位指名を受けました。遠藤選手はさっそくトロントFCの練習に初参加。MLSでの活躍次第では、U-23日本代表にサプライズ選出される可能性もゼロではありません。近年、海外のスター選手が続々と加入するMLSですが、他のアメリカンスポーツ同様にドラフト制度が存在するなど、独特のルールがあることでも知られています。 【写真】アメリカで来春ラグビーのプロリーグ誕生 ビジネスとして勝算はあるのか?
戦力均衡を図るためのドラフト制度
Jリーグの創設から遅れること3年。1996年に開幕したMLSは今年で20年目に入ります。Jリーグ同様に10クラブで開幕したMLSですが、現在では東西各カンファレンスにそれぞれ10クラブずつ(計20クラブ)。それぞれのカンファレンスの上位6チームが、事実上のプレーオフとなるトーナメント式の「MLSカップ」の出場権を獲得し、カップ戦での優勝クラブが年間王者になる仕組みです。クラブ数はさらに増加する見通しで、2017年にはアトランタのクラブが、2018年にはロサンゼルスのクラブがそれぞれMLSにリーグに加盟する予定です。 春開催という点ではJリーグと同じですが、リーグの運営面、とりわけ若手の育成やクラブが保有する選手に関するルール、降格の有無に目を向けると、日本とは大きく異なるプロサッカーの環境がアメリカにはあります。他のアメリカンスポーツ同様に昇格も降格も存在しないMLSでは、下位で低迷するクラブに対して、ドラフトにおける新人選手の指名で優先権が与えられます。 アメリカンフットボールや野球に代表されるアメリカのメジャースポーツで採用されているドラフトですが、アメリカではMLSでも行われています。 ドラフトの歴史をひもといてみると、アメリカ国内で賛否両論の繰り返しだったことが分かります。メジャーなスポーツでは1930年代にNFLが最初にドラフト制度を導入。50年代にはNBAが、60年代にはMLBがこの流れに続きますが、意外にもメジャーリーグでは「戦力均衡化」を図るドラフトは「共産主義のような考えで、アメリカ的ではない」と嫌悪感を示すオーナーも存在するほどでした。 1965年にMLBでドラフトが開始される直前まで、ニューヨーク・ヤンキースを含む4球団がドラフト制度に反対していましたが、それらは全て当時豊富な資金力を持っていたとされる球団でした。また、ドラフト制度では基本的に1つのチームが独占交渉権を手にするため、ドラフト指名を受けた新人選手の契約金や年俸の決定はチーム主導で行われます。新人選手にはチーム選択の権利も与えられないため、ドラフト制度を「スポーツ界における奴隷制度」と批判する声は、現在に至るまで残っています。新人選手の年俸高騰を抑えたいプロチームにとっては、ドラフト制度は渡りに船なのです。 加えて、アメリカ国内の大学教育の位置付けも大きく影響しているという指摘もあります。日本以上に学歴が重視されるアメリカでは、高卒と大卒では就職時に大きな差が出るため、プロになれなかった場合や、競技人生を終えたセカンドキャリアを見据えて、大学の学位だけは取るべきという風潮があります。大学授業料の高騰が社会問題化する近年では、スポーツ奨学金でプロ入り前に大学進学を選ぶアスリートは「現実的」とさえ考えられています。