【イベントレポート】映画「HAPPYEND」空音央が栗原颯人・日高由起刀との運命的な出会いを回想
映画「HAPPYEND」の一般試写会後トークイベントが本日9月17日に東京・神楽座で行われ、監督の空音央、キャストの栗原颯人、日高由起刀が登壇した。 【画像】監督の空音央 遠くはない未来を舞台とした本作は、幼なじみで大親友のユウタとコウを軸に友情の危うさを描いた青春映画。2人のいたずらが大騒動に発展して学校にAI監視システムが導入されたことをきっかけに、自らのアイデンティティと社会への違和感について深く考えるようになったコウと、楽しいことだけをしていたいユウタが少しずつすれ違っていく様子が描かれる。栗原がユウタ、日高がコウを演じた。 7年ほど前に本作の構想を練り始めたという空。着想のきっかけは自身の学生時代の経験だったという。「大学に入って政治に目覚めたんですが、自分の政治性、友達の政治性がきっかけで、距離を置いたり、突き放したり、突き放されたりということがあったんです。僕にとって友情は大切なもので、今の自分があるのは友達の存在が大きい。突き放されなければいけない正当な理由があったということは頭では理解していたんですが、同時に悲しかった。友情の崩壊というものが心の中にあって、それを映画にしてみたいと思いました」と真摯に語る。 そんな物語を制作するにあたり、メインキャストである栗原、日高、林裕太、シナ・ペン、ARAZIをオーデイションで選んだ空。栗原、日高との出会いを「お恥ずかしいんですが、一目惚れのような感じ」と表現し、「たくさんの人たちを見たんですが、こればっかりは自分の直感に頼りたいところがあって。誰もマッチせず、それが長く続いていたんです。そしたらある日、颯人と由起刀がやって来た。その瞬間にユウタとコウだとわかっちゃったんです。話を聞いてみると、2人の背景や体験がユウタとコウに重なるものがあった。これはキャスティングするしかないなと思いました」と運命的な出会いを振り返った。 栗原は「『ユウタってどう思った?』って聞かれたとき、『100%僕だと思いました』とお話ししたのを今でも覚えています」と回想。日高も「韓国の血が入っていて、コウと自分のルーツが重なる部分が多かった。コウをどう演じるかではなく、いかに自分を出せるかということを考えていました。音央さんが『この場合、コウじゃなくて由起刀ならどうするか?』ってところを大切にしてくださったので、とてもやりやすかったです」と感謝した。 空は「HAPPYEND」を撮影するまでは、演出の方法論がわからなかったそう。「メインキャスト5人中4人が演技未経験で、これはどうしたものかと。そのときに縁があって、濱口竜介監督のアドバイスをいただいたんです。そのとき一番言っていたのは『とにかく俳優たちと信頼関係を築いて、リラックスした状態でやるのがいい』ということ。シナがニューヨークにいたので、撮影の2カ月ぐらい前から、オンラインで週3ぐらいコミュニケーションを取りました。それぞれが自己紹介をしたり、その中に嘘を交ぜて、当ててみる遊びをしたり」と準備期間を思い返す。そして「空想上の設定の中でいかに自分らしくいられるか? どれだけ正直に相手に反応できるかというのを集中してやりました。頬を近付け合ったり距離を縮め合う練習も行った。そしたら勝手に5人がごはんに行き出して(笑)。知らないうちに友達になっていた。現場でカメラを回したら、そこに友情がありました」と自然な空気感の成り立ちを明かした。 ベテランのキャストが脇を固めている本作では、ユウタの母親を渡辺真起子、コウと対峙する校長を佐野史郎が演じた。栗原は「渡辺真起子さんは役者のお仕事をする前から知っている大先輩。一緒にお芝居をさせていただいたのはうれしい経験でした。何より、撮影中は目の前に自分の母親が立っているような感覚になって。演技力じゃない、その場の居方みたいなものを勉強させていただいた。真起子さんとのシーンでは自分の経験がフラッシュバックして、カットがかかった瞬間めちゃくちゃ泣いてしまって。光栄な経験でした」と言葉に力を込める。 一方の日高は「佐野さんは怖い方なのかなと思っていたんですが、やわらかい方でフラットに関わってくださった。『のびのびやりな』と言っていただきました」と裏話を披露。これを横で聞いていた空は「校長が生徒を取り調べるシーンがありますが、そのときに佐野さんが僕のところに来て『彼いいね』って言っていたのが印象深かったです」と日高が褒められたエピソードをうれしそうに報告した。 イベント中盤には、第81回ヴェネツィア国際映画祭で行われた本作のワールドプレミアを3人が振り返る場面も。空は「拍手をたくさんいただいてうれしかったです。上映が終わったあとに、特に若い世代のお客さんが寄ってきて『本当にありがとう』『僕も在日コリアンだけど、描いてくれてうれしい』と声をかけてくれた。同じような経験をした方たちに届いたのがうれしかったです」と笑みをこぼす。 「スタンディングオベーションがやばかったです!」と話すのは日高。「けっこう長くて戸惑っちゃって、座ってほしいぐらいの長さで」と素直に口にすると、客席からは大きな笑いが。日高は「無知でわからなかったんですけど、スタンディングオベーションってすごいらしくて『こんなことないよ!』って言っていただいて。現地のアイスクリーム屋さんでも、そこに並んでいる方が『HAPPYEND観たよ!』って感想を伝えてくれました。いろんな方に刺さる、共感してもらえるのは主演として光栄なことです」と伝えた。 ワールドプレミアには間に合わなかった栗原は悔しがりつつも「遅れて現地に着いて、みんながいるごはん屋さんに行ったら店員さんが『映画観たよ! ありがとう、ヴェネツィアに来てくれて』って言ってくださって。うれしかったです」とにこにこと口にする。空は「颯人が現地に到着した瞬間、由起刀は泣いてました(笑)」と暴露。日高は「演技の練習として、泣かせてもらおうかな!と」と強がったものの、「号泣しました(笑)」と白状していた。 最後に空は「(日本の一般の)観客第1号になっていただきありがとうございます。長い時間がかかったので本当にうれしいです。10月4日から公開です。よろしくお願いします」と呼びかけ、イベントの幕を引いた。 「HAPPYEND」は10月4日に東京・新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開。 (c) 2024 Music Research Club LLC