言葉の裏に文化あり? 「自転車」を使った言い回しアレコレ
自転車が掻き立てるイマジネーション
日本語で「自転車」を使った言葉と言えば……? 最初に思い浮かぶのは「自転車操業」という言葉ではないでしょうか。辞書には「資金の借り入れと返済を繰り返しながらかろうじて経営を維持すること。また、そのような経営状態」と書かれています。自転車はペダルを回して走ることをやめると倒れてしまうことから、このような言い回しが生まれたそうです。 【画像】イメージを掻き立てる「自転車」を画像で見る(3枚)
いまや日常で使われることも多いこの言葉ですが、1960年ごろに『安曇野』などで知られる小説家の臼井吉見が作った言葉だと言われているそうです。意外と最近のことですが、日本で自転車が大量生産され始めたのは戦後なので、庶民の生活に普及するのはその後になります。 ことわざや慣用句は、中国からやってきた『故事成語』が基になっていたり、『古事記』の中にも使われるなど、その歴史は古く、多くは13世紀ごろから広まり、とくに江戸時代にたくさん作られています。 200年ほどの歴史しか持たない「自転車」は、古い言葉には出てきませんが、「車」を使った言い回しは数多くあります。「火の車」、「口車に乗る」、「車の両輪」など、たくさん見当たります。 現代においては「車」は普通自動車を指しますが、時代によって異なり、平安時代には「牛車」、明治・大正時代には「人力車」を指します。作られた時代を見るとどういった車かわかる点がユニークです。たとえば「火の車」は12世紀に人気のあった『今昔物語集』に記されているそうなので、牛車かも? と、想像が膨らみます。 一方、海外を見てみると、ドイツには「トラックいっぱいの薬より、1台の自転車」ということわざがあるそうです。ヨーロッパでは早くから、無理なく身体を動かせる有酸素運動として自転車文化が根付いているので、薬をたくさん飲むよりも自転車で病気を予防しよう、という考えは理解できます。 ちなみに、同じドイツで有名な物理学者アインシュタインも、自転車を例えに使った格言を残しています。 『人生とは自転車のようなものだ。倒れないようにするには動き続けなければならない。』(Life is like riding a bicycle. To keep your balance you must keep moving.) 一方、フランスには、一風変わったことわざがありました。 『ザワークラウトの中で自転車をこぐ』(Pedaler dans la choucroute.) これはランナーが疲れきって、レースを続けるエネルギーがなくなったときに使用されます。曰く、作業を生み出すことができなくなった人、または前進しない状況を指すそうです。まさにお手上げ状態、といったところでしょうか。 ザワークラウトはフランスでは「シュークルート」と呼ばれている家庭料理のひとつです。皿に山盛りでサーブします。その上で自転車を走らせるとは、いかにもフランスらしい気の利いた言い回しではないでしょうか。 このようなことわざ以外にも、多くの著名人がスピーチや著書の中で「自転車」を持ち出しています。ジョージ・W・ブッシュやジョン・F・ケネディといったアメリカの元大統領をはじめ、ヘミングウェイ、コナン・ドイルといった著名作家など、そうそうたる顔ぶれです。 「一心にペダルを漕ぐ」というシンプルな自転車だからこそ、そこからイマジネーションが掻き立てられるのかもしれません。
IGA(キャプテン自転車部)