人口激減で「日本の地方」は一体どうなるのか…意外と知らない「一番懸念されること」
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
論点3 地方都市の稠密性をいかに保つか
今後、市場メカニズムによる企業の再編圧力を避けることはできない。そして、こうした動きに伴って、地域のあり方も変わっていくだろう。今後、人口減少が進んでいったときに地域はどうなるだろうか。 地域経済の観点で言えば、今後最も懸念されるのは集積の経済の喪失である。たとえば小売業を想定すれば、企業が店舗を立地した際、人口密度はその企業の利益に大きな影響を及ぼす。つまり、人口が密集しており、住民が店舗に容易にアクセスすることができる状況下にあれば、企業はより効率的に利益を上げることができる。 一方、地域の人口密度が低く、店舗に数十キロの移動を要するのであれば、その人はそのような店舗で買い物を行うことを躊躇するだろう。物流も同様である。過疎地域が増えて住居が点在することになれば、店舗の仕入れや宅配に関して、効率性が大きく損なわれる。 あるいは、道路や鉄道の路線などのインフラについても、これまでと全く同様のネットワークを保つことは簡単ではない。今後、地域の人口の稠密性が失われた過疎地域においては、十分な質・量のインフラを整備することは難しくなっていくと予想される。そして、このようにして増大するコストは、最終的にはサービス価格に転嫁されることから、その地域に住む住民が負うこととなるはずだ。人口密度が低い地域に住み続ける人は、より高いコストを負担して生活を行わざるを得なくなるのである。 こうした経済の現実に直面する中、生活者もただ手をこまねいてみているということにはならない。今後、市場メカニズムは住民の足による投票を促すと予想される。 つまり、住んでいる地域の生活が不便になれば、一定数の人は利便性の高い都市圏に住居を移そうと考えるだろう。不便な地域から人が流出を続ければ、少数の都市に人口は集約していくはずだ。そうなれば、東京一極集中とは言わずとも、おそらく多くの地域でこうした中核都市に人口が多極集中していく流れが生じていくことになる。 近年、政府は地方創生の名の下、各地域において移住促進や若者の地域定着、関係人口の拡大などの取り組みを促している。地域経済の活性化のために、こうした地域間でその魅力を高めるための競争は必要であるし、歓迎すべきものである。 しかし、人口減少が進んでいく現代において、すべての地域が等しく発展していくことはもはや不可能であるということもまた、日本社会は緩やかに受け入れていかなければならない。そうなれば、政府としてもいかにしてすべての自治体の存続を図るかという視点ではなく、各地域で退出を伴いながら緩やかな集約に向かう方向性に舵を切っていく必要性も生じるだろう。 人々が住む地域を変えていくことには長い時間を要することも事実である。若い世代は機動的により便利な都市に転出を図るとしても、高齢世代の一部は自身の築いてきたコミュニティが存在する現在の地域に継続して住もうと考えるだろう。そう考えれば、人口の移動は世代交代を通じて長い年月をかけてゆっくりと進んでいくとみられる。 そうなれば地域の今を生きる人々の目線に立ったうえで、現役世代や働き手が徐々に失われていく地域が幸せな縮小に向かうための意思決定も現実問題として考える必要があるだろう。その意思決定は、これまでのまちおこしや地方創生とは異なる意味でこれからの日本の地域社会にとって欠かせないものとなる。 こういった視点で今後の都市政策を考えていくことや、また地方交付税や国庫支出金をはじめとする国から地方への財政移転のあり方、地方自治体が広域的に連携するための仕組みづくりなどについて、現代にふさわしい地域のあり方を探っていく必要性が生じるとみられる。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)