弱体化が続く町内会・自治会と地域防犯の切っても切れない関係
こうした「小さな悪」が放置されていると、一方では人々が罪悪感を抱きにくくなり(つまり、悪に走りやすくなる)、他方では不安の増大から街頭での人々の活動が衰える(つまり、悪を抑えにくくなる)。そのため、「小さな悪」がはびこるようになり、その結果、犯罪が成功しそうな雰囲気が醸し出され、凶悪犯罪という「大きな悪」が生まれてしまう。これは「悪のスパイラル」と呼ばれている。 こうした地域では、犯罪者は「犯罪を行っても見つからないだろう」「犯罪が見つかっても通報されないだろう」「犯罪を止めようとする人はいないだろう」と思い、安心して犯罪を始める。要するに、犯罪者からすれば、見て見ぬふりをしてもらえそうな「見えにくい場所」なのだ。 逆に、地域の乱れやほころびを見かけたら、見て見ぬふりをせず、きちんと対応すれば、人々の罪悪感の低下を防ぎ、犯罪が成功しそうな雰囲気を漂わせないことができる。つまり、「悪のスパイラル」を阻止する警告メッセージになるのである。近所付き合いによって、住民の多くが見て見ぬふりをしなければ、それが可能だ。そうして、心理的に「入りにくく見えやすい地域」になる。 このように、地域の防犯にとって、「無関心は最大の共犯者」だ。そのため、犯罪が成功しそうだと思わせないためには、「関心の輪」をつないで、地域に「心理的なバリア(防壁)」を張る必要がある。言い換えれば、地域ネットワークの構築や近隣コミュニケーションの活性化が求められる。そして、この輪のハブ(中核)になれるのは町内会しかない。町内会が「犯罪機会論」で理論武装し、「入りにくく見えやすい地域」をつくっていくことが望まれる。
小宮信夫(立正大学教授[犯罪学]/社会学博士)