ウクライナ軍がハルキウ方面への増援強化 ロシアの「陽動」にはまる懸念
ロシア軍が5月9日の対独戦勝記念日にウクライナで新たな攻勢を始めるであろうことは、この戦争を観察してきた人々の間では広く予想されていた。果たして9日未明、BMP歩兵戦闘車やMT-LB装甲牽引車に乗り込んだロシア軍部隊がウクライナ北東部の国境を越え、ハルキウ州の州都でウクライナ第2の都市であるハルキウ市から北へ27kmほどしか離れていない一帯に進軍した。 ウクライナ軍は即座にBMPとMT-LB数両を破壊した。続けて、大破したこれらの車両を回収するためにロシア側が送り込んだBREM装甲回収車1両も破壊した。 それでもロシア軍の第11軍団と第44軍団の小隊規模の部隊、つまり数十人程度の部隊は国境から南へ15kmかそこら前進し、ストリレチャ、ピルナ、クラスネ、モロホベチ、オリーニコベの各村を占拠した。 ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは11日のリポートで、冷静になるよう呼びかけている。「ロシア軍がなぜこれほど素早く国境を越えることができたのか疑問に思っている人も多いが、答えは簡単だ。国境地帯はグレーゾーンであり、国境線沿いに部隊や防御設備は直接配置されていないからだ」 ウクライナ側は代わりに国境から南へ数km離れた場所に防御陣地を築き、そこに陸軍や領土防衛隊の部隊を駐留させ、国境地帯でのロシア軍の侵入に対応できるようにしている。 「(ウクライナ側の)防御が崩壊したと主張するのは早計であり、現実に即していない」とフロンテリジェンス・インサイトは注意を促している。「大規模な機械化旅団の場合と異なり、(ロシア側の)国境の小さな村に駐留するロシア軍の軽装甲の小規模な戦術部隊は比較的容易にグレーゾーンに侵入し、制圧できる」 ロシア側は、占拠したいくつかの村の陣地に増援を送ろうとしている兆しがある一方、国境とハルキウの間のウクライナ側の主要防御線に本格的な攻勢をかけるべく、連隊や旅団全体を集結させている動きは確認されていない。 そのためフロンテリジェンス・インサイトは、ロシア側が国境沿いの小さな村々を越えてさらに前進するのは「依然として非常に困難だ」と指摘している。 --{ 軍の動揺や住民のパニックを誘うことこそロシア側の狙いか}-- そもそも、ロシア側は本格的な攻勢を意図しているわけではなさそうだというのが、フィンランドの軍事アナリスト、ヨニ・アスコラの見方だ。アスコラは、ロシア軍によるハルキウ方面の「攻勢」は周到な陽動であり、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州とルハンシク州)の2つの主要な攻勢軸であるチャシウヤール方面とアウジーウカ方面からウクライナ軍の一部部隊を引き離すのが目的ではないかと推測している。ロシア軍は昨年後半以来、両方面で多大な損害を出しながら攻勢を続けている。 アスコラによれば、ロシア軍は陽動によってウクライナ軍に部隊の配置転換を強い、「東部での主要な攻勢への対抗に使用できる予備兵力を減らす」ことを狙っている可能性が高い。 もしそうだとすれば、ロシア軍の作戦は目的を達成しようとしている可能性がある。 ウクライナ軍はハルキウの北方面を守る領土防衛隊の部隊を増援するために、まず陸軍の第42独立機械化旅団を送ったもようだ。ウクライナ軍の将校デニス・ヤロスラウスキーによれば、さらに陸軍の第57独立機械化旅団と第92独立強襲旅団、国防省情報総局のクラーケン連隊も同方面に移動しているという。 ウクライナ軍参謀本部は動揺しているようだ。まさにそれこそロシア側の狙いかもしれない。フロンテリジェンス・インサイトは「ロシアは国境を越えて脅威が迫っていると住民に信じ込ませ、社会にパニックと不安をもたらすことを意図しているとみられる」と述べ、こう続けている。 「ウクライナ側がこれらの地域(ハルキウの北方面)へ部隊を移動するように仕向けることで、ロシアはドンバス地方におけるロシアの戦略目標にウクライナ側が注力するのを乱そうとしている」