生まれたときから自転車で旅を続ける一家。「家を持たない豊かさ」とは?
13年間、世界中を旅をしながら暮らしています。 旅の途中で生まれた2人の娘は1度も学校にいったことがありません。 スイス大使館の中を裸足で駆け回る少女たちを横目に、ご両親は満面の笑みで語りました。 この家族は、自転車に必要最低限の荷物を乗せて世界中を旅するパッシュファミリーです。一家は日本周遊中にスイス大使公邸でトークイベントを開催。 旅と教育に興味津々な私のもとにも招待状が届いたので、話を聞いてきました。
自転車、ときどき船で旅する一家の日々
家を持たず、テント暮らしを13年も続けているパッシュファミリー。 父親のグザウェイさん、母親のセリーヌさん、長女ナイラさん(10歳)、次女フィビーさん(6歳)の4人家族です。 パッシュファミリーが旅をしながら暮らすようになったのは、グザウェイさんが、セリーヌさんと結婚する以前から「スイスから地球の反対側に位置するニュージーランドまで、人力で行ってみたい」という夢を抱いていたから。 彼はイタリアでサイクリストたちと出会ったことをきっかけに、自転車でニュージーランドを目指すように。 それからセリーヌさんと出会い、結婚。1年後には、スイスを出発して、ヨーロッパ、中東、シベリアなどを経由し、5年の月日をかけてニュージーランドまで行ったそうです。 長女ナイラさんが生まれたのは、ニュージーランドに向かう途中のマレーシア、ペナン島。ナイラさんが生後5カ月になると自転車の旅を再開したといいます。 その4年後に、次女フィビーさんも同じくペナン島で生まれました。 家族が増えても、ライフスタイルは変わりません。 フィビーさんは2歳から自転車に乗りはじめ、今では1日に50キロほど自転車で移動するそう。 ときに50度を超える灼熱の国、ときに氷点下を下回る極寒の地に、家族は自転車で向かいます。
自然こそ最大の教材であり教師。旅と教育について
ナイラさんとフィビーさんは、これまで学校に通ったことはありません。 勉強はどうしているのか気になっていたら、母親のセリーヌさんが次のように話してくれました。 部屋の中では視野が狭くなりますが、外に出れば五感を刺激できます。 森の中で神経を研ぎ澄まし、落ちている木や石を使って遊びをクリエイトします。野生動物のために簡易的な家をつくることもあります。 さまざまな文化や言語に実際に触れることで、好奇心が刺激されて学ぼうとする意欲が生まれます。 砂漠を横断した経験を通して、距離の計算や方角の見方、時間の概念や、気温・水の管理といった理科や算数を学びました。 私たちが「学び」や「勉強」と考えて1番に頭に浮かぶのが学校でしょう。 しかし学校とは、誰かが時間をかけて研究し、解析し、わかりやすく噛み砕いたものを効率よく教えてもらう場所にすぎません。 パッシュご夫妻は、娘を学校に行かせないことで学びの機会を奪っているのではなく、もっとも贅沢な勉強方法を娘たちに与えている、私はそのように感じました。 教育とは、机上の勉強だけに限らず、社会性や協調性といったものも含まれます。 人の優しさに触れ、多文化の中に身を投じる生活を送ってきたナイラさんとフィビーさんは、人見知りをしません。 また、現代を生きる子どもなら、スマホやゲームなどのガジェットに関心を持ってもおかしくないですが、2人にはそれらも必要ないようです。スイス大使公邸の庭を裸足で駆け回り、ゲストと一緒にかくれんぼしていました。 その姿は、バーチャルな体験に夢中になりがちな私たちに、人間や自然、東京という街の方がはるかにエキサイティングで魅力的であると再確認させてくれるようでした。