戒厳司令官も「知らなかった」 国防相ら少数で決定か 準備不足のまま暴走・韓国
【ソウル時事】韓国の尹錫悦大統領が「非常戒厳」を出した後、戒厳司令官を担った朴安洙陸軍参謀総長が、談話による公式発表まで戒厳を出すことを知らなかったと証言した。 【写真特集】韓国が一時「非常戒厳令」 尹氏に戒厳を進言したのは金龍顕国防相(当時)。尹氏は反対する周囲の意見を聞き入れず、側近らと共に戒厳に踏み切ったとみられる。 ◇「法的検討必要」と難色 「談話を見て非常戒厳が宣言された事実を知った」。朴氏は5日、国会国防委員会でこう証言した。戒厳令に伴う布告は自身の名前で発表されたにもかかわらず、誰が作成したかも分からないと言及。布告の文面は「任務遂行を命令された後に受け取った」と明かした。 朴氏は、布告文を受け取った際「同意できる専門性がなかった」ため、法的な検討が必要だと主張。だが、国防省から発表をせかす電話があったため、布告文を公表することになったという。朴氏は4日に辞意を表明した。 ◇情報機関トップも反対 尹氏に戒厳を進言したのは、金国防相だったとされる。夏以降、戒厳のうわさが出ていたが、「非現実的」と受け止められており、準備がいつ始まったのかははっきりしない。 韓国紙・中央日報によると、談話発表の約4時間前の午後6時ごろ、金氏と尹氏は大統領室で会った。その後、尹氏は午後9時から閣議を開き、戒厳を諮ったが、ほとんどの閣僚が事前に内容を知らされていなかった。 韓悳洙首相や、趙兌烈外相らは、経済や外交への影響を懸念し、戒厳に反対したと伝えられるが、尹氏は聞き入れなかった。与党「国民の力」の韓東勲代表も「知らされていなかった」と話しており、事前に計画を把握していたのはごくわずかだったとみられる。北朝鮮の動向把握を所管し、本来は戒厳を出す際に重要な役割を果たすはずの国家情報院長さえ異論を唱えたという。 金氏は、尹氏の高校の1年先輩という間柄。陸軍出身で、対北朝鮮強硬派として知られる。「従北勢力を一挙に撲滅する」。尹氏は戒厳発表の談話の中で野党側を「北朝鮮に従う勢力」と断じ危機感をあらわにしていた。こうした発言には、金氏の影響力が反映されているという見方もある。 ◇右往左往 3日夜から4日未明にかけ送られた戒厳軍は、窓ガラスを割ったり、壁を乗り越えたりして国会へと進入したものの、韓国各紙は「精鋭部隊らしくない右往左往する姿」(朝鮮日報)「MZ(ミレニアム世代とZ世代を合わせた造語)戒厳軍」(中央日報)などと報道。命令には一応従うものの、かつての軍事政権時代とは異なり、制圧に及び腰になる今どきの若い兵士の様子を伝えた。 報道によれば、部隊は戒厳の解除を求める決議を採択するため本会議に出席しようとする国会議員を逮捕することもせず、塀を乗り越えるのを黙認していたという証言が出ている。また、銃には実弾が装填(そうてん)されていなかった。 わずか6時間で幕を閉じた非常戒厳。周囲の同意をほとんど得られず、あまりに準備不足のまま突っ走ったことに「見掛け倒し」「お粗末だ」といった声が上がっている。