ドナルド・トランプの登場から共和党はどう変わったか
岡山 裕
労働者の動員を本格化させ、孤立主義・保護主義に傾斜し、民主主義と相いれない政治姿勢もいとわない…。米共和党の近年の変容は「トランプの台頭」に端を発するものなのか。筆者は「ことはそう単純ではない」と、歴史的・構造的な要因を強調する。
ドナルド・トランプが2016年に米国大統領に当選してから、共和党は大きく変わったといわれる。トランプらによる党の「乗っ取り」も進み、20年の全国党大会は再選を目指すトランプの礼賛に終始する、異例のものとなった。24年3月には、トランプの推す2名が、全国の共和党組織の協議機関である全国党委員会の共同委員長に選出されている。 トランプは元々共和党の政治家でなかったので、この間の変化も党の外からもたらされたと思うかもしれないが、ことはそう単純でない。以下本稿では、支持勢力、政策方針、そして政治姿勢について、トランプの登場後に共和党が経験したとされる変化を概観する。そこではいずれの要素についても、党とすでに結びついていた勢力や立場が存在感を増したか、米国全体で長期的に進んだ変化を受けたかによって生じた面の大きいことが強調される。
新たな支持勢力としての労働者?
トランプの登場後、「共和党に何が起きた」のかが話題になってきたが、この間に同党が完全に変質したわけではない。今も続く二大政党のイデオロギー的分極化のきっかけは、民主党の多数派が20世紀半ばまでに推進したリベラルな政策に反発した、さまざまな保守派が共和党に結集したことであった。財界など経済面で政府の関与に反対するオールドライト、社会的伝統の維持を重視する宗教右派、そして力の外交を目指す反共主義者の三本柱を中心に、保守派は互いの政策課題の実現に向けて協力してきた(※1)。この構図は、今日にも大筋で当てはまる。 トランプも、とくに内政面では保守派の立場をとることがほとんどである。そのなかにあって注目されたのが、従来民主党の支持層であった労働者の動員で、彼はそのために社会的インフラの整備や保護主義といった、経済面の保守路線に反する政策も主張してきた。これは当初意外性をもって受け止められたが、実は労働者は20世紀末から共和党への傾斜を強めてきており、トランプはそれを利用した格好である。その後、共和党の政治家に、重要な支持母体である大企業を敵視するような言動も目立ってきた(※2)。 とはいえ、労働者の動員が共和党の政策路線を転換させたかは定かでない。民主党側が同調する姿勢をみせたにもかかわらず、トランプ政権期にインフラ整備はほとんど実現しなかった。共和党側は、反移民や伝統主義を前面に出して社会文化面で保守的な労働者を取り込みたいだけで、労働者向けの経済政策をとるつもりはないという見方も有力である。労働者内の政党支持分布をみても、労働組合員に民主党支持が多く、高所得者が共和党寄りというように、従来の党派対立の構図と対応している(※3)。この点は、引き続き注視する必要があろう。 仮に政策路線が変わらなくとも、共和党側が労働者の動員を本格化させたこと自体、重要な変化といえる。減少傾向にあるものの、依然として非大卒は有権者の約6割を占め、二大政党の全国的な拮抗状況を共和党の有利に変える可能性がある。ジョー・バイデン大統領の組合支援の動きにみられるように、二大政党による労働者層の奪い合いが激化している。さらに、近年はとくに若年層で人種的マイノリティの共和党支持が増えつつあり、あわせて影響が注目されよう(※4)