モーリーの予測。米大統領選で激戦州の「普通の人」は、ハリス・ウォルツという「退屈」を選ぶ?
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、米大統領選で伯仲するトランプvsハリスの闘いについて考察する。 * * * ボラティリティが高い政治を希求するのか、それとも――。まだ大統領選挙の投票先を決めていないアメリカの有権者は今、それを問われているのかもしれません。 ボラティリティとは、乱暴に言えば株価や為替の変動幅を指す金融用語です。ボラティリティが高い商品は、うまくいけば儲け幅も大きいが高リスク。逆にボラティリティが小さい商品は、さほど儲からないがリスクも低い。言うまでもなく、ボラティリティが高く見えるのはハリスよりもトランプのほうです。 ほぼ休眠状態だったXの公式アカウントで投稿を再開した直後に行なわれたイーロン・マスクとのオンライン対談は、瞬間視聴者数130万人を超えたとされますが、トランプの発言は〝ファクトチェックフリー〟の大放談でした。丁寧な議論よりもドライブ感だけを求め、見かけ上のボラティリティを極大化させて支持者を熱狂させるのがトランプ陣営の戦略なのでしょう。 話が少々脱線しますが、今の国際社会において最も強烈な〝ボラティリティ政治家〟のひとりといえるのは、エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領でしょう。就任した2019年に国連総会の壇上でセルフィーを撮ってSNSにアップしたように、インフルエンサー的な情報発信が得意な彼は、派手で即効性があるように見える政策を、〝副作用〟を気にすることなく次々と打ち出してきました。 例えば2021年には、世界で初めて仮想通貨ビットコインを法定通貨に採用。案の定、財政リスクが悪化したもののIMF(国際通貨基金)の勧告をブケレは無視し続けています。また、憲法を制限して「疑わしきは罰する」強権的な治安対策を推進し、治安が大幅に改善した一方、冤罪を訴える人も多く、国内外の人権団体から批判されています。 さらに、自身に批判的な最高裁判事や検察庁長官の罷免を次々と強行し、今年2月の大統領選では85%以上の得票で、憲法で禁じられているはずの再選を実現......と、やりたい放題です。 ブケレは今年2月、アメリカの保守派団体CPAC(保守政治活動協議会)の総会に出席し、トランプにエールを送りました。一方、6月のブケレの就任式にはドナルド・トランプ・ジュニアが出席。〝ボラティリティ政治家〟同士は互いの利害から連携しているようです。 誤解を恐れずに言えば、エルサルバドルのような政情不安の国では、ある種の〝乱暴な政治〟を行なうことに一定の理もあるでしょう。厳しい現状を変えたいと願う国民が、独裁的な振る舞いをするリーダーを支持するのも理解できる部分はあります。 しかし、アメリカのような国ではどうでしょうか。