村田諒太の不可解判定の背景に何があったのか?
驚くべきことだが、実はWBAなどの国際ジャッジになるための資格試験や実技テストなどはなく、総会に参加して登録料を払って申し込めば、誰でも審査を受けることができる。機構側が、その申し込んだ人物の所属統括団体に問い合わせて、審査して認められれば、それで国際ジャッジになれるのだ。JBCは、レフェリーライセンスの交付には厳格な試験や審査を科しているが、国際ジャッジになるためのワールドスタンダードはないのだ。だから人によって採点基準がバラバラというようなことが起きるし、特にWBAではこの手のトラブルが耐えない。 またジャッジの高齢化問題も背景にあるという。 今回の3人の年齢を見ると、パナマのパディージャは59歳、アメリカのカウル・シニアは60歳、カナダのアールは70歳だった。59歳と60歳は経験豊富なベテランと見れるが、70歳はどうだろうか。 3人のジャッジは、リングに、ほとんど接するくらいの最前列に一段高い特別のジャッジ席が作られていて、そこから試合を見て採点をつける。最も近い場所から試合を見るので、パンチが当たったか、当たっていないかの正確な判断や選手のダメージなどを見ることができる。 それでも100試合を超える世界戦を裁いた森田健氏は、「場所によって、背中しか見えない場合もあって、当たったかどうか判断できない場合もある」という。 世界戦クラスになると目にもとまらぬ速さでパンチが交錯する。ほとんどのジャッジがボクシング経験者だが、その動きを確実に視覚に捉えて判断するには、かなりの動体視力が必要とされる。そして、その動体視力は、年齢と共に衰えていくものだが、国際ジャッジに定年制はなく、前述したようにそもそも資格テストもない。年齢に応じての定期的な資格審査などもないため、よほどのことがない限りなかなか引退せず、WBAに限らずどんどん高年齢化しているという。 ちなみに森田氏は12年前に「もう体力的に裁けない。後身を育成したい」と70歳で引退している。 世界戦にかかわっているボクシング関係者は、「おかしな判定が出た場合、ビデオを見直して検証を行うのですが、高年齢化にともない、ミスジャッジが増えています」と言う。 エンダムの勝ちとつけた70歳のカナダ人ジャッジは、カナダ人として初めてニューヨークのアスレチック委員に選ばれ、マジソンスクエアガーデンでロイ・ジョーンズ・ジュニア対ジョー・カルザゲのビッグマッチのレフェリーを務め、地元カナダでのスポーツ殿堂入りまでしている人物。昨年4月には、田口良一とランダエタのWBA世界ライトフライ級戦のレフェリーも務めているが、エンダムのパンチがほとんどブロックされていたことや、村田のボディ攻撃がダメージを与える有効打だったことを正確に判断することができていたのだろうか、という疑念さえ抱く。 試合後、帝拳ジムの本田会長は「ボクシング界が信頼を失う」とも心配していた。WBAがジャッジの質を高め、公平性を維持する努力をしなければ、確かにボクシングに対する信頼は揺らぐ。不可解判定を“後の祭り”で済まされてしまえば、もし村田が再戦できても、不安は解消されないだろう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)