「労働者を守る」アピール合戦、日米関係にも影 日鉄のUSスチール買収阻止
【ワシントン=塩原永久】バイデン米大統領は日本製鉄のUSスチール買収を阻止し、民主党の大統領として「米国の労働者を守る」という姿勢を示した。共和党のトランプ次期大統領も買収阻止を公言する中、政権交代前に判断を下し、労働者層の支持を手繰り寄せたい思惑がある。もっとも、同盟国・日本からの買収提案に米政府が介入したことで、日米関係に影を落としかねない。 昨年11月の米大統領選では、民主、共和両党が労働者層の支持を争う構図が鮮明になった。民主党は労働組合を支持基盤としてきたが、労働者の雇用を支えると訴えたトランプ氏に労組票が流れた。 将来の大統領選でも、東部ペンシルベニア州などの接戦州で、労働者の支持獲得が重要になるとみられる。民主党のバイデン政権として、これ以上の労組票の離反を防ぐ必要があった。 多くの組合員を抱える全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長は、2023年12月に日鉄が買収合意を発表して以来、一貫して買収反対を表明していた。 USスチールはペンシルベニアなどの接戦州に工場を持つだけでなく、東部ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルの建設で鉄鋼を供給するなど、米国製造業の繁栄を象徴する存在だった。 政治的な駆け引きが激しくなる大統領選を控えた時期の日本企業の買収提案を巡っては、「出資にとどめておくべきだった」(元米政府関係者)との声も出ていた。 一方、石破茂首相が訪米を計画する中、米政府トップが買収阻止を正式決定したことは、同盟関係を基盤とする日米の紐帯(ちゅうたい)に疑念を抱かせかねない。買収が阻止されれば「日米関係が問題を抱えている証拠だと中国は受け止めるだろう」(ポンペオ前米国務長官)とも指摘されていた。 ロイター通信の報道では、石破首相がバイデン氏に対し、日鉄によるUSスチール買収を容認するよう求める書簡を送っていた。 今回、民主、共和両党の指導者が、ともに外国からの買収提案を巡る政府介入に躊躇(ちゅうちょ)しない姿勢を示した。米国内の保護主義的な機運は強まっており、日本企業を含む海外からの対米投資の先行きにも影を投げかけている。