背景に「2000人の消えた赤ちゃん」問題…韓国で「内密出産」認める新法が施行 孤立出産と乳児遺棄を防ぐ
●ドイツ、フランスにも内密や匿名の出産制度はある
ーーもう一つ、保護出産の法制化が加速した背景として『消えた赤ちゃん問題』を挙げています。 「2023年4月に政府が発表した『消えた赤ちゃん問題』は社会に大きな衝撃を与えました。韓国では、子どもが病院で生まれると、予防接種などのために新生児番号が付与されます。 その後、親が行政機関に出生届を出すことで、国民として認知されます。 しかし、2015年から2022年までの8年間で、病院で生まれて新生児番号が付与されたけれども、出生届が出されていない赤ちゃんが2000人以上もいることが分かりました。 その後、6、7割の赤ちゃんはベビーボックスに預け入れられたことが分かったのですが、調査の過程では遺棄された赤ちゃんがいることも判明しています。出生の届け出で、親に任せるだけでは子どもの権利は守られないこと、予期せぬ妊娠をして誰にも相談できず孤立する女性がいることが浮き彫りになり、法制化への機運が一気に高まったのです。 超党派の議員立法で、2023年10月に『危機妊娠保護出産法』が制定されました。ドイツの内密出産制度、フランスの匿名出産制度と法令化している国はあり、韓国はドイツの内密出産制度と大枠は似ています」
●生みの親個人の情報開示は本人の同意が必要
ーー新しく始まった保護出産の流れを教えてください。 「予期せぬ妊娠により危機的な状況に陥った女性は、その先のことを考えられずパニック状態になることがあります。まずは韓国全体で16カ所ある地域の相談機関に相談をすることで、自分の状況を整理し、生まれてくる子どものことを考えられるようになります。 保護出産が注目されがちですが、大事なのは16カ所の相談機関による丁寧な支援です。その結果、自分で育てる、または子どもを養子縁組に託すということを決めていきます。最後にどうしても難しい場合は、保護出産を申請します。指定された相談機関の大半が妊娠期の入所施設を運営してきた社会福祉法人です。 相談機関を経て、女性は希望する医療機関に仮名で入院して、出産します。出産や入院費用は国や自治体が負担します。保護出産した女性は産後7日間、赤ちゃんを自分で育てるかどうかを考える『熟慮期間』を持ちます。その上で、地域の相談機関や管轄する自治体に引き渡す決断をした場合、その時点で親権は停止します」 ーー保護出産で生まれた子が出自を知る権利はどう保障されるのですか。 「保護出産した女性には氏名や連絡先などを記録に残すことが義務付けられます。女性の情報は、児童権利保障院という日本のこども家庭庁にあたる国の機関が保管します。保護出産で生まれた子は、成人に限らず、未成年でも保護者の同意のもとで、出生証明書の公開請求ができ、出自を知れるようになっています。ただし、生みの親の個人を特定するような情報は、生みの親本人の同意がなければ開示されません」