〈台風19号〉「車が川に落ちる音も聞こえなかった」 東京都多摩地域、神奈川県相模原市の被災現場を歩く
各地に記録的な大雨を降らせた台風19号。千曲川など大河川の氾濫による甚大な浸水被害は言うまでもないが、同時多発的にさまざまな風水害が発生しているのが今回の台風の大きな特徴だ。 そうした災害は、首都圏の東京都多摩地区や神奈川県相模原市などでも多数発生している。その中には、尊い命が奪われた場所もあれば、多くの人にとって最大の財産である家屋が回復不能なダメージを受けた場所もある。また、そのような場所の近くではあるが、大きな被害を免れた場所もある。 そのような被災現場のいくつかを歩いてみた。
車のライトが突然川を向いた(相模原市緑区)
相模原市緑区青山を流れる相模川の支流、串川。門倉勇さん(74)は12日夜、この川にかかる小さな中村橋を渡った自宅のそばで、足を止めた。暗闇の中、普段は穏やかな串川にゴオゴオと水が流れる音が響いていた。時折聞こえるコツコツと、ゴツゴツいう乾いた音は、大きな石がぶつかり合っている音のようだ。 普段とは異なる自宅前の川の様子に唖然としていると、対岸の車1台通るのがやっとの川沿いの下り坂の道路が光る。車のライトのようだ。しかし、車はそのまま坂を下らず、いったん止まったように、門倉さんには見えた。道路脇のケヤキの木数本が少し動いたような感じがした。 その時だった。車のライトが川を照らした。直後、車は川に落ちて、濁流にのみこまれ、下流に流されていった。車が川に落ちたときの音も、濁流にかき消されて聞こえなかった。 目の前を見ると、道路があった場所は、ケヤキの木と共に濁流によって大きく削り取られていた。 門倉さんは、浸水被害から身を守るため、1キロほど離れた避難所に昼間から避難し、風雨が収まったことから、自宅に帰る途中だった。「あわてて、携帯電話で119番通報しました。後で、発信履歴を見ると、12日の午後10時31分でした」 報道によると、門倉さんの自宅前で転落した車には40代の父親、30代の母親、小学生の男女の親子4人が乗っており、いずれも死亡が確認された。 「逃げるいとまもなかっただろう」。門倉さんは、目の前で起きたことを振り返り、言葉を絞り出した。