〈台風19号〉「車が川に落ちる音も聞こえなかった」 東京都多摩地域、神奈川県相模原市の被災現場を歩く
前門の虎、後門の狼(東京都あきる野市)
山田大橋から少し秋川を下流にむかったあきる野市牛沼地区。圏央道あきるのインターチェンジの対岸、東京サマーランドのすぐ東の地区では、秋川に面して建つ家が大きく傾いていた。 16日夕方に現地を訪れた。地元の女性たちに話を聞いていると、市議に連れられた都議が車2台で視察にやってきたと思うと、家をバックに写真を撮影して、帰っていった。彼女たちは「日中は都知事も来たようだよ」と話していた。 その後、近くに住む奥田智哉さん(67)、渡辺孝次さん(72)と辺りが薄暗くなるまで話を聞いた。 「この辺りは、川と斜面に挟まれた地域。何十年か前はそんなに家は建っていなかった。でもバブルのころから家が建ち始めた」という。 2人の案内で、川がえぐられた場所を見る。緩やかながら、秋川が下流に向かって左にカーブしているところに当たる場所だ。カーブしているためか、すぐ上流より、少し川幅が狭くなっているように見えなくもない。「本来の護岸は今残っている部分の倍以上あったんだよ。でも川が曲がるところで、削られた部分に水の勢いが集中してしまったんじゃないかな」。渡辺さんが語る。 一通り、周囲を案内してくれた最後に、奥田さんが話した。「川に近づけば今回のようなことになるし、川から離れれば土砂災害が怖い地区。まさに『前門の虎、後門の狼』です。科学が発達して、災害を抑えられるようになって、人が住まなかった場所にも住むようになった。でも、実は抑えられるような気がしていただけだった。人間は結局、自然には勝てないということですよ」
同じ場所で被害再び(東京都青梅市)
青梅市内では、多摩川を挟んで、青梅街道と並行に走る吉野街道(都道45号線)。御岳渓谷にひっそりとたたずむ中国蘇州にある寺にちなんだ寒山寺のすぐ真上に当たる橋の部分は、工事関係者によると、3年前の台風で土砂災害が発生したため、長らく片側交互通行となっていたという。 しかし、今回、同じ場所の沢に、多くの土砂と水が押し寄せた。橋の下にあった水の通り道は見る限り、流れてきた土砂で埋まり、その影響だろうか、橋は歪んでしまっている。通行するのは危険で、全面通行止めになっている。 「今年11月ぐらいでようやく工事が完了すると思っていたんですが、これでまた見通しが立たなくなりました」 そう語るのは、近くに住む50代の女性だ。 「私の家は、まだ青梅の市街地側にあるので、それほどの不便はないのですが、橋の向こうの人は、市街地に出るためには西の御岳橋を使うルートしかない。ずいぶんと遠回りになってしまいますね。都内から御岳山に向かう人たちにとっても不便ですよね」 ただ、沢を大量の土砂が駆け下りた場所から100メートルほど離れているとはいえ、女性の家も背面は急傾斜地。がけ崩れや土石流への警戒が必要となりそうな場所に見える。 しかし、女性は、台風襲来当時、がけと反対側の部屋で土砂災害の恐怖に耐えていたという。 「犬がいるんです。小さいのが2匹。この子達を避難所には連れていけないし、当然、置いていくこともできないでしょ。大雨の時は、いつも土砂災害に遭うかもしれないとは思うんですが」 今回、広域で同時多発的にさまざまな災害が起こった。報道されていない中には、ほんの少しのことで被害を免れたり、被害は受けたが軽微だったという事案も数えきれないほどあるだろう。ただ、そうした中にも、災害から人々が身を守る上で、生かすことができる教訓がたくさんあるのではないか。小さな被災地を回って、そんなことを思った。 (文・写真・動画=飯田和樹、具志堅浩二)