「新しい計画の成就はただ不屈不撓の一心にあり」倒産したJALを熱意あふれる集団に変えた稲盛和夫の情熱
■ 組織を動かすのは経営者の情熱 アメリカのギャラップ社が2020年に実施した企業の意識調査によると、日本企業には「熱意あふれる社員」の割合がわずか5%しかいないというのです。これは米国34%、中国17%、韓国12%と比べても大幅に低く、世界で最下位レベルです。それが日本経済低迷の根本的な要因だと分析しているのですが、稲盛さんは皮膚感覚でそれが分かっていたのです。 稲盛さんには、社員の意識は上司の写し絵でしかないという確信がありました。上司に熱意がないのに部下だけが燃えているようなことはあり得ないというのです。 日本人は真面目であり「考え方」はしっかりしています。個々人の「能力」も高いはずです。社会インフラなどの物理的条件も他国に劣ってはいません。ただ、社員の「熱意」だけが徹底的に劣ってしまっているのです。 その社員の「熱意」は上司の写し絵なので、冷めた上司が「いくら高めろ」と言っても決して高まるものではありません。 社員は上司を見て仕事をしているので、まずは経営トップが燃えるような情熱や不屈不撓の一心を行動で示すことが不可欠なのです。社員の熱意が高まらないのであれば、それは経営者の情熱・エネルギーが不足しているからに他ならなのです。 どんな高級車でもガス欠では走れません。経営者はガソリン、つまりエネルギーを社員に注入し続けなければ、社員は立ち止まってしまいます。 そうであれば、日本経済を復活させる最良の方法は、稲盛さんが指摘するように、経営者がまず潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持ち、社員の先頭に立って社員にエネルギーを注入し続けることです。それができる経営者なのかどうかが、今、問われているのではないでしょうか。
■ JALを熱意あふれる集団に変えた言葉 JALの再建は、そのことを明白に示しています。稲盛さんが倒産したJALに着任した当時、経営幹部は意気消沈し「絶対に再建を成功させる」という潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持っている人は皆無でした。 そのような中で稲盛さんは、JAL再建には「日本経済に役立つ」「社員の雇用を守れる」「競争を通じてお客様の利便性を維持できる」という三つの大義があると語り、先の「新しい計画の成就はただ不屈不撓の一心にあり、さらばひたむきにただ想え、気高く強く一筋に」という言葉を紹介したのです。 その後は、稲盛さん自身が不屈不撓の一心で再建に取り組んだのですが、その手法は決して強引なものでも、性急に結果を求めるものではありませんでした。機会があるごとにフィロソフィを諄々と説き、会議やリーダー教育の中では、経営の目的や仕事の意義、リーダーのあるべき姿や役割、また数字で経営することの大切さ等を説き続けました。 当時のメディアからは、そんな悠長なことで再建ができるはずはないと批判されました。しかし、一見迂遠に思えるような方法でしたが、それによって幹部の心に火が点き、その火は燎原の炎のように全社に広がり、JALは熱意あふれる集団に変わっていったのです。 そのことを稲盛さんは「社員の心に火が点いた」と表現していましたが、JALは燃える集団となり、わずか3年という奇跡的なスピードで再建は成し遂げられたのです。 当時八十歳になっていた稲盛さんは「自分が燃えていて、相手の心に火を点けるのが最高の経営だ」と話していました。情熱に年齢は関係ないのです。 JAL再建が想像を超えるスピードで進んでいた2年目の6月、私は稲盛さんから一枚の手書きメモをもらいました。そこには「不燃性の人はいないのではないか」と書かれていました。 稲盛さんは「物に自燃性、可燃性、不燃性とあるように、人間にも自燃性、可燃性、不燃性の人がいる」とよく話していました。つまり、組織の中には不燃性の人がいることを認めていたのです。実際に、再建当初、マスコミは「JALには慇懃無礼で冷め切った人しかいない、だから再建は不可能だ」と批判していました。 しかし、再建から2年が経過し、燃える集団に変わったJALを見て、稲盛さんは「不燃性の人はいないのではないか」と考えを改めたのです。それは稲盛さんにとっても新たな発見だったのでしょう。 どんな組織でも、リーダー次第で、全員の心に火を点けることも燃える集団にすることもできる。JAL再建はそのことを明確に示しているのです。