【NTTリーグワン2023-24 プレーオフトーナメント特別企画】「プレーオフで優勝しないと意味がない」松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)
あの日、あの時、あの場所で抱いた悔しさを、埼玉パナソニックワイルドナイツの松田力也は忘れていない。 【全ての写真】埼玉パナソニックワイルドナイツの松田力也 「ホントに去年の負けから、同じ思いをしたくないところから、今シーズンはスタートしました。勝つことはもちろん大事ですが、負けることによって得られるものが、僕自身は大きいと思うんです」 昨シーズンの『NTTジャパンラグビーリーグワン2022-23プレーオフトーナメント』決勝で、埼玉WKはクボタスピアーズ船橋・東京ベイと激突した。前シーズンにリーグワン初代王者に輝き、レギュラーシーズンを15勝1敗の首位で通過していた埼玉WKは優勢を伝えられていたが、ラスト10分で逆転を許して15対17で競り負けたのだった。 迎えた今シーズンは、開幕から圧倒的なまでの力を見せつけた。開幕節で『リーグワン2022-23プレーオフ』3位の横浜キヤノンイーグルスを53対12で一蹴すると、7節では同4位の東京サンゴリアスを退ける。全勝同士の対決となった9節の東芝ブレイブルーパス東京戦も、36対24で制した。圧巻の16戦全勝を記録して、レギュラーシーズン1位で『リーグワン2023-24プレーオフ』に進出したのである。 「今シーズンは海外からたくさんいい選手が来て、そういう部分でのインパクトが強かったと思いますけど、僕たちは昨シーズンからほぼ同じメンバーでやっていて、お互いの特徴やクセを理解したうえでプレーできています。試合の入りから自分たちのラグビーを体現できている試合が、すごく多いかなと」 昨シーズンの埼玉WKは、後半に自力を見せつける試合が話題を集めた。“逆転のワイルドナイツ”と形容されたりもしたが、今シーズンは違うのだ。19点差を引っ繰り返した4節のトヨタヴェルブリッツ戦のような試合がありつつも、松田が話すように「試合の入りから」実力差を示す展開を増やしていったのである。 「昨シーズンも意図して逆転勝利が多かったわけではなく、ゆっくり入ったりとか、序盤にミスが目立ったりとか、そういうところが追いかける展開を招いていました。今シーズンは前半から、自分たちのラグビーをすることができています。みんなの心のなかでスイッチが入ったのかどうかは分からないですが、昨シーズンのプレーオフ決勝の負けが生きていると思いますね。やっぱり追いかける展開にはしたくないですし、 そういうところはみんなが分かっているんじゃないかなと」 追いかける展開にしたくないのは、埼玉WKだけではない。対戦相手も同じである。そのなかで先行し、中押しをして、突き放していくのは、簡単ではないだろう。 松田は静かにうなずき、ここでもあのS船橋ベイ戦を持ち出した。3対12から15対12としたままで試合が終わっていたら、“逆転のワイルドナイツ”としての評価はさらに高まり、選手たちも自負するところとなっていたかもしれないからだ。 「相手チームも先行したいのはもちろんそうで、だからこそ昨シーズンのプレーオフ決勝がいい影響を与えているんじゃないか、と自分は思います。あの試合で勝っていたら、先行されても逆転できるというような思考になっていたかもしれないので。今シーズンは毎試合、毎試合いい準備をして、全員が前半からすごくいい状態で100パーセントやり切ることができています。これまでもそうやってやりたかったし、できていた試合もあったけれど、今シーズンはそういう試合がより多くできています」 5月18日(土) のプレーオフ準決勝では、レギュラーシーズン4位の横浜Eと激突する。今シーズンは2連勝している相手だが、油断も慢心も、てらいもけれんもない。 「今シーズン3回目の戦いになるので、お互いにやることというか、全部出し尽くしたなかで対戦することになる。最終節に対戦したばかりでもありますし、少しやりにくさみたいなものもあります。でも、自分たちワイルドナイツのラグビーをやりきれるか、やり続けられるかどうかが大事です。自分たちのクオリティにこだわって、練習から少しでもあげていきたい。簡単な試合にはならないので、チームで戦いたいですね」 最後のワンフレーズは、松田が考えるチームの「強み」を示している。「全員がつながっています」と、チームメイトへの信頼を口にした。 「試合に出ている15人、メンバーの23人が注目されますが、試合に出ていないメンバーが相手の分析をしてくれたりしています。これまでもあったことですが、そういうところの結束がチームとしての一体感につながっています。グラウンドに立つ選手は本当に責任を持ってプレーしていて、すごく勢いがあっていいラグビーができている。 全員で勝ちにいきたいし、最後に全員で笑えるように。 口に出さずとも、誰もがそういう思いを秘めていると感じます」 松田自身の思いとは違うところで、横浜Eとの対戦には注目のポイントがあげられる。田村優との「10番対決」だ。松田も「そうですね」と小さく笑った。 「優さんとはそういう形でずっと言われてきて、僕自身はやりにくいとかやりやすいとかはありません。相手の10番が誰でも、10番同士が当たることはあまりないですし。いつもどおり冷静にプレーしたいし、チームの勝利に貢献したいだけですね」