「みんながこの状況を過度に恐れすぎている」――沢木耕太郎が「旅なき日々」に思うこと【#コロナとどう暮らす】
一方で、若い人に対して、「旅をすべきだ」という物言いはしたくない。沢木は著書で何度もそう書いてきた。国内旅エッセーをまとめた近著『旅のつばくろ』(新潮社)にもこうある。 --- 日本の若者たちが外国旅行をしなくなったと言われて久しい。 それもあって、私のような者にまで、もっと外国を旅せよという「檄」を飛ばしてもらえないかといった依頼が届くようになった。 だが、申し訳ないけれどと、そうした依頼はすべて断ることにしている。 ひとつには、私も若いとき、年長者の偉そうな「叱咤」や「激励」が鬱陶しいものと思えていた。だから、自分が齢を取っても、絶対に若者たちに対するメッセージなどを発しないようにしようと心に決めたということがある。(『旅のつばくろ』より) --- 「若い人がどうとかっていう物言いはしないようにしてきましたし、それはこれからも変わりません。ただ、すごく気になっているのは、みんながこの状況を過度に恐れすぎていること。周囲の目もあるだろうし、罹患に対する恐れもあるのかもしれないけど」 沢木は『深夜特急』の後書きで、これから旅をしようと思う若者への餞(はなむけ)として「恐れずに、しかし気をつけて」というメッセージを記している。まずは恐れることなく旅に出ればいい、ただし注意は怠るな、と。 「今、僕が感じているのは逆です。注意深くある必要はあっても、そんなに恐れる必要はないんじゃないかな。今ならこう書きますね、『気をつけて、しかし恐れずに』」 沢木耕太郎(さわき・こうたろう) 1947年東京都生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、ほどなくルポライターとして出発し、鮮烈な感性と斬新な文体で注目を集める。1979年『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、1982年に『一瞬の夏』で新田次郎文学賞を受賞。その後も『深夜特急』や『檀』などを次々に発表し、2006年『凍』で講談社ノンフィクション賞、2014年に『キャパの十字架』で司馬遼太郎賞を受賞。近年は長編小説『波の音が消えるまで』『春に散る』を刊行。今年4月、緊急事態宣言下の発売となった国内旅エッセー『旅のつばくろ』(新潮社)が話題に。