CO2をプラスチック原料に変える細菌、循環型社会実現の切り札に期待…「もったいない」世界に訴え
万博考 祭典の意義〈4〉
フラスコに二酸化炭素(CO2)を注入すると、透明な液体が乳白色に変わっていく。液体中の細菌がCO2を「エサ」にして、増殖しているのだという。 【写真】失敗しても「まあいいか」な喫茶店…万博・関西パビリオン
「水素酸化細菌」。地球上のあらゆる場所に生息し、CO2を生分解性ポリマー(高分子)に変えて蓄える。ポリマーはプラスチックの原料となり、不要になれば微生物によって分解され、自然に返る。
兵庫県高砂市にある化学大手カネカの研究所。1990年代から、この細菌の研究を続けてきた。より多くのCO2を吸収して多量のポリマーを蓄え、多様なプラスチックが生み出せる菌種を作る技術を持つ。吸収量は藻類の50~70倍。2030年までに量産に向けた実証実験を始める計画という。
世界のプラスチックの生産量は年間4億トン超と推計され、大半が化石燃料由来だ。大量に廃棄される現状は、地球の温暖化と海洋汚染を招いている。
研究を主導するカネカの佐藤俊輔さん(45)は「石油の代替となり得るプラスチックの原料は、もはやCO2しかない。循環型社会を形作る『ド直球』の技術になる」と力を込める。
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この研究成果は日本が誇る先進技術として、来年4月に開幕する大阪・関西万博で紹介される予定だ。政府のパビリオン「日本館」の目玉の一つとなる。
日本館は「循環」をテーマに掲げる。環境への負荷を抑えつつ、持続的な経済成長を追うには、世界的規模の循環型社会の実現が不可欠だ。日本の顔となるパビリオンは、そのメッセージを打ち出す場となる。
日本は古来、循環を大切にする文化を育んできた。構想段階から日本館に関わる京都大総合博物館の塩瀬隆之准教授(51)は「割れた器を修復する『金継ぎ』のように、日本にはモノを使い尽くす文化がある。目指すべき『循環』の姿を日本が世界に伝えていくことは大事な使命だ」と語る。
万博では、日本館以外にも循環を意識した展示が目立つ。バイオ燃料の原料となる藻類を高効率で培養、CO2と水素から都市ガスの原料のメタンを合成――。国内の企業や研究機関がこぞって最新の技術を披露する。