東都大学野球春季リーグ戦の日大戦で素振りをする青学大の西川史礁＝5月16日、神宮球場

　10月24日のプロ野球ドラフト会議で、青学大の西川史礁（みしょう）外野手が2球団の競合の末、ロッテから1位指名を受けた。レベルの高い東都大学リーグで最高殊勲選手（MVP）に昨春、今春と2度選ばれた大学球界屈指の強打者。大学最後のシーズンとなった今秋は9月25日に死球を受けて右手人差し指を痛め、4試合で戦列を離れた。ならばと、リーグ戦ではネクタイを締めてベンチの最前列に陣取り、4連覇を決めたチームを鼓舞。裏方の役割も率先してこなした。 　大学3年生になって頭角を現した21歳は、ドラフトを前に、「常に自信を持ちながらやってはいたが（指名順位が）1位かどうかで緊張している自分は想像していなかった。こんな選手になれるとは思っていなかった」と謙遜していた。そんな好青年を地で行くスラッガーは、次なる大きなステージに挑む。（時事通信運動部　安岡朋彦） 【写真】ロッテの吉井理人監督と交渉権確定のくじを手にする青学大の西川史礁外野手 ◆けがで離脱も「今できることをやる」 　リーグ戦が佳境に入り、ドラフトも控える10月中旬。インタビューに応じた西川は今の心境や立ち位置について、こう語った。 　「（秋季リーグ戦で）いい結果を残して、文句なしでのドラフト1位というのを自分の中で目指していたが、けがをしてしまった。プレーをしなくても試合中に声掛けなど、できることはたくさんあると思う。今は、そういうところしか意識していない。（悔しい気持ちが）ないかと言われたら、そうではない。やっぱり、それはあった。自分にとっても大事なシーズンだった。打撃の内容も打率4割（10打数4安打）で1本塁打、6打点と、いいスタートを切れていた。それだけにすごく悔しい気持ちはあった。ただ、自分が落ち込んでしまうとチームにとってマイナスにしかならない。そこはしっかりと意識しながら、今できること、チームのためにできることをやろうと切り替えられた」 　その言葉を、そのまま体現していた。リーグ戦では、ブレザーを脱いだワイシャツ姿でグラウンドに身を乗り出すようにしながら声を張り上げた。練習の準備や後片付けも率先して行い、指を負傷した右手の代わりに左手を使って、チームメートのトス打撃の球出しをする場面もあった。心憎いばかりの行動力も備えている。 ◆苦境打開へ、パワーヒッター目指す 　高校時代から長打力のある選手として注目されていた、わけではない。龍谷大平安高（京都）の2年生だった2019年に春の選抜大会で甲子園を経験した。8強入りしたチームの遊撃手として7番か8番を打ち、3試合で10打数3安打3打点。青学大に進学したものの1、2年生の頃は、まとまった出場機会を得ることができなかった。 　2年生の秋を終えた時点でのリーグ戦の通算成績は、11試合に出場して17打数2安打、4三振。本塁打はなかった。苦境を打開するため、何に取り組むべきかを自分で考え、たどり着いた結論はパワーを付けることだった。 　「このままじゃ駄目だと思った。最初の2年間は、出てもDH（指名打者）とか、代打とか。少ないチャンスを生かしきれなかった悔しさもあった。3年生になる前に、自分で何かを変えないといけないと思い、まず体を大きくしようと思った。身長はあった（182センチ）けど、細かった。ウエートトレーニングを倍増させて、誰よりもバットを振った」 ◆大学3年の春、一気に開花 　結果こそ出ていなかったものの、高校時代に比べて体が大きくなり、打撃練習で飛距離が出るようになったことを実感していた。これが長距離打者になる道を選んだきっかけだったという。ただし、やみくもに筋力を強化して、大きな打球を打つことばかりを追い求めたわけではない。あくまで「いいバッターになる」ことが目標。2ストライクに追い込まれてからは、高校時代にチーム全体で取り組んでいたという踏み出す足を上げないノーステップ打法を再現させ、三振を減らす努力をした。 　その効果は、本人も予期しなかったほどすぐに表れる。3年生の春は全11試合に出場し、打率3割6分4厘、3本塁打、10打点と上々の成績を残した。17年ぶりにリーグ制覇を果たしたチームの原動力となり、MVPを初受賞。ベストナインにも満票で選ばれた。三振は44打数で五つだけ。大学日本代表に選出され、日米大学選手権の全5試合で4番を打った。 　今年2月、こう話していた。「いきなり自分でも想像していなかったぐらいの成績を残すことができて、大学日本代表にも選ばれた。『こんなことあるんだ』って、正直今でも信じられないぐらい。それぐらいの練習はしていたが、やっぱり自分でも、まだ驚いている部分はある」。それまでは結果を残せなかったことから、胸にしまい込んでいた「プロ野球選手になりたい」との思いを堂々と口にできるようになったのも、その頃からだという。 ◆練習で磨いた「勝負強さ」 　持ち味が打撃というのは自他共に認めるところ。とりわけ、ここ一番での勝負強さが光る。昨春にレギュラーの座をつかんでから今春までの3シーズンで、2度にわたりMVPに輝いた。 　強みをいかんなく示したのが、のが、今春のリーグ戦だ。僅差で勝った試合で必ずと言っていいほど打った。4月8日の国学院大とのシーズン初戦（1－0）をはじめ、同16日の亜大戦（2－1）、5月9日の中大戦（2－1）、15日の日大戦（1－0）では、いずれも適時打を放って勝利に貢献した。12試合で打率3割1分8厘、1本塁打、7打点。昨春の数字に及ばなくても、ここぞの価値ある一打が際立つからこそのMVPだろう。こうした活躍ができるように、普段の練習から意識していたことがある。 　「やっぱり確率を上げていかないと。リーグ戦になるとレベルの高い投手が出てくるので、（打てる球は）1球で仕留めないと、もう甘いコースには来ない。それはプロになっても必要なことなのかなと思って、自分の中では一番意識している。それは練習とか、自分の意識でしか変わらない。バッティング練習をやる中でも、打つだけじゃなくて、しっかりとケース（アウトカウントや走者）を自分の中で設定する。打撃投手の緩い球だったら百発百中で捉えられないと、実戦に入った時に自分が思った通りにできない。練習からしっかりと振った中で芯で捉えるというのは意識してやっている」 ◆侍ジャパンでも存在感 　実力もさることながら、大舞台で力を発揮できる精神面の強さも併せ持つ。野球日本代表「侍ジャパン」のトップチームの一員として臨んだ今年3月の欧州代表との強化試合では、ヤクルトの村上宗隆内野手やソフトバンクの近藤健介外野手らプロのスター選手が揃う中でしっかりと存在感を示した。 　代走から途中出場した第1戦。六回の初打席で初球を思い切り良く振り抜き、左翼線への適時二塁打を放つ。続く八回の打席でも、1ボールからの甘く入った球を逃さず左前にはじき返した。 　試合後の記者会見で、井端弘和監督は「緊張があった中だったと思うが、ファーストスイングから振れていた。その後（2本目）の安打もそうだが、スイングした打球がファウルにならずに飛んでいくところが並の大学生ではない」と評価。村上も「積極的にスイングを仕掛けられるのは、すごくいいところ。それに加えて結果も出るのは、いいスイングをしている証し。こういう舞台で結果を残すことがどれだけ難しいかは僕も分かっている。すごい大学生だと思って見ていた」と感心しきりだった。 ◆「誰もが知っている日本の4番」に 　1番中堅で先発出場した2戦目にも1安打を放ち、守備ではファインプレーを見せた。強化試合は京セラドーム大阪で行われ、2試合とも2万5000人を超える観客が入った。さすがに緊張はしたそうだが、注目されること自体は嫌いではないという。 　「自分としては、うれしいこと。それをプレッシャーに感じる人もいると思うが、自分は逆にワクワクする。ちっちゃい時から、そういうところがあった。家でティーバッティングをしていると、近所の人が見に来ることがあって、見られていた方が気合が入った。そういう性格だった」 　そんな西川の目標は「誰もが知っている日本の4番」。謙虚な人柄からは想像しえない、大きな夢を持っている。