出版社からは「NO」 大ヒット映画『永遠の0』の隠れた苦悩
昨年12月21日の公開以来、観客動員数8週連続1位を獲得し、累計動員613万人、興行収入75億円を突破した、映画「永遠の0」。直近で生田斗真主演の「土竜の唄 潜入捜査官 REIJI」(2月15日公開)に首位の座を明け渡したものの、その勢いは止まらず80億円突破も見えてきた。 昨年は、宮崎駿監督の引退作となった「風立ちぬ」を始め、邦画上位4作品までがアニメーション。そんな実写作品逆風の中で、ぶっちぎりの快進撃を続ける同作品に俄然注目が集まっている。
原作となったのは、放送作家・百田尚樹が50歳にして初めて書いた同名小説。第二次世界大戦を経験した自分の父親、叔父から聴いた戦争体験を、何か形にして後世に伝えたいという想いが、生きるために戦い抜いた零戦操縦士を主人公にした物語に筆を走らせたようだ。しかし、そんな熱い想いとは裏腹に、小説自体は低空飛行のスタートだった。 ■出版社からは「NO」大ヒット作品も当初は苦戦の連続 当時、放送作家としての地位を確立していた百田だが、本作品に執筆に没頭するあまり、仕事を減らしていったという。しかし、その代償として収入は激減。妻からは家計を圧迫していることを告げられたこともあった。それでも、最終的には、その妻にも後押しされ、作品を完成にさせる。それでも、すんなりとはいかなかった。 百田が、いくつかの出版社に原稿を持ち込むも、どこも「NO」というつれない返事。結局、サブカル系の出版社から何とか「OK」をもらい、なんとか出版にこぎ着けた。しかし、それでお戦争モノということもあって、当初は読者層が50、60代の男性中心で、今ほど幅広い層には支持されていなかったという。それでも徐々に作品が認められるようになったのは、放送作家出身ならではの、彼の創作力と文章スタイルにあった。 「短い文節とリズムの良さ、ストーリーの分かりやすさに特徴があり、日頃、本を読まない人でもとっつきやすい。これは、視聴者の誰もが楽しめる番組作りを心掛けるバラエティに携わってきた、彼ならではの発想。読みやすさと、しかも泣ける要素の詰まったストーリーということで、口コミで広まり、若い世代にも浸透した」(雑誌ライター)。 ■放送作家ならではの“演出法”で起死回生 映画大ヒットの要因は、そんな原作読者の高い支持があったのは事実、だが、それだけでは現状のような動員数には至らない。やはり、原作を活かした“演出法”が破格の動員に繋がっている。 その一つが「泣ける」ということ。主人公・宮部久蔵(岡田准一)の家族への愛、教え子や戦友とのエピソードが随所に散りばめられ、それが感動を誘い、館内には至るところからすすり泣きが聞こえる。中には、男性で号泣する人もいるほどで、デートで鑑賞し、恥ずかしい思いをしたという話も珍しくないという。