日米通算2700安打!右打席と左打席で人格を変えたスイッチヒッターの極意・松井稼頭央さん プロ野球のレジェンド「名球会」連続インタビュー(20)
▽コーチに教わった「ジキルとハイド」の考え方 スイッチの難しいところは、絶対に後からつくった方を7、8割ぐらい練習してしまうこと。そうしたら右は2割しかやらないじゃないですか。振っている量が10本違うだけで、1年間でどれだけ本数が違うのかということになってきます。スイッチが大変なのは右を300回振ったら、左も300回振らないといけないということかな。片方だけでは、もう片方がおろそかになって絶対悪くなります。両方維持するのであれば、両方同じ数だけ振らないといけません。 当時の須藤豊ヘッドコーチには「右と左の人格を変えなさい」ということを常に言われました。右打席は自然体、自分の感覚でいいですけど、左はつくった左なので賢くやらないといけない。つくった左はすぐ崩れてしまうから、そこはしっかりと(意識を)持っておかないと、という意味で。配球を読むのとは別です。両打席に立てるからスイッチなだけであって、右に立ったら右打者、左に立ったら左打者になりたいです。だから人格を変えなさいと。そこを一緒にすると引きずるので。前の打席と完全に離さないといけません。両方調子がいい場合はなかなかないです。右で駄目だった時に右投手が出てくると「ラッキー」と思ったりします。右で調子がいい時に左に立つと、左ピッチャーを当ててくる時もあります。だから、なるべく人格を変えるようにしていました。
初めは右と左でバットの形を変えました。左打席はグリップの大きいものを使いました。どうしても振れない、うまくヘッドが返ってこないので、てこの原理じゃないですけど、グリップエンドの重さを利用して打ったんです。当てるバッティングでしたが面白くなくて、やっぱりしっかり打ちたいという気持ちが自分の中にあり、徐々にバットを変えていきながら最終的には右左とも一緒ぐらいになりました。(1本を共用するのではなく)右は右、左は左とグリップに書いて分けていました。基本的に右で感覚のいいバットも、左では違うんですよ。同じバットでも構えた時の感覚が違うんです。 ▽夢のまた夢を超えた先にあったもの 初回先頭打者本塁打は26本(プロ野球歴代6位)。基本的にはファーストストライクをしっかり打つ準備をしています。初回の先頭なので、投手もストライクが欲しいと思っているでしょうし。初球を空振りしても見送っても1ストライク。僕は見ていても、その日の投手の球が来ているか来ていないかは分かりません。振ってみないと分からないです。見たら絶対に遅く見えます。打たないからです。打ちにいくから、いろんな事が重なって初めて「わっ、ボール来てるな」というのが分かります。感じるわけじゃないですか。自分から動かないと分からないところがあると思います。そういう意味では初球を振ってもボールでも、そんなに気にはしなかったです。振ってきたなと思うと投手はまた警戒するので、後は駆け引きになってきます。2ストライクまでにどれだけ仕留められるか。追い込まれてからだと厳しい球が来ます。僕はホームランバッターじゃないので、チャンスは1ストライク目、2ストライク目ですよね、と思っています。