まさに光源氏と紫の上!『プリシラ』エルヴィス・プレスリーに愛された15歳の少女。浮気者のスターと彼女の関係は
◆現代映画界の純文学 今回の『プリシラ』に関しても、「エルヴィスの楽曲を管理する会社が、彼の曲の使用許諾をださなかったの。だから彼の曲は使えなかったけど、その分自由な映画作りをさせてもらったわ」とコメント。実に根性のある大人の女性なのだ。個人的には彼女のことはとても好きである。 ただ、話題になった『マリー・アントワネット』なども、映像美や女優の魅力の引き出し方は文句なしなのだが、歴史観などを打ち出したものではなく、淡々とアントワネットという少女の美しさ、愚かさ、純粋さを描写しただけの処があり、「え、ここで終わるんですか?」と言うあっけない終わり方。 「アンチ・ロマン」ともいえる、ある意味腰砕けな構成がこの監督の癖。(笑) 今度はちょっと違うかな?と、期待したが、この『プリシラ』も特に大きな盛り上がりもないまま、あっけなく終わった。でも、不思議と引っ張られて観ちゃうんですよ。最後の挿入歌などもとてもよくて、ジワリと心を打たれた。あえてドラマ性を打ち出さないのが、彼女の美学なのか。 「ガール・カルチャーの旗手」という評価はまさしく正鵠を得ていて、恋愛の機微、「ああ、男ってこういう反応するよね」とか、皮膚感覚的な恋愛描写は上手いことこの上ない! そういった細部を活かすために、あえてクライマックスを作らず、大きな構成をとらないのかもしれない。となれば彼女の作品は、現代映画界の純文学と言える。
◆ソフィア・コッポラ自身の強さや魅力 私生活ではスパイク・ジョーンズと結婚し、やがて離婚。今はフェニックスのボーカリスト、トーマス・マーズとの2度目の結婚生活が順調のよう。 恋愛の非常に細かい描写にリアリティを感じるのは、彼女自身が真剣に恋愛をしてきたからだと思う。有名人の娘だからとおごることなく、ごく普通の女性として男性を愛してきた。そんなソフィア・コッポラ自身の強さや女性としての魅力を、スクリーンの向こうに感じてしまう。 それにしてもこの映画の主人公、エルヴィスに愛された女性プリシラが、僅か15歳でありながら、愛を知って急に大人び、交際を反対する両親に「彼は孤独なの、守ってあげたい」と言い切るとこは大変印象的。 エルヴィスの好みに合わせて黒髪に染め、請われるままにドイツからアメリカにわたって彼の家から通学してカトリック系の高校を卒業。「現代版・紫の上」みたいな展開と行動で、「男に振り回される女」でもあるのだが、迷わずそれを選んでいく強さが、「愛する力」なんだなあと、妙に心を揺さぶる。
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