小泉今日子×福岡伸一「“アイドル”と動的平衡」 どんどん壊して、新しくつくり変えていく
そういうところから自由になったら、もうこっちのもんじゃないかという感じで(笑)。さまざまなジャンルの音楽をやってみるとか、いろんなタイプのお洋服を着るとか、そんな発想にどんどんつながるんです。 だから、一度捉えた言葉に対して、自分が自分のルールを決めていくみたいなことがすごく好きで……、ずっと好きなのかもしれません。 福岡 イメージを壊してから、新しいものを創造していますよね。まさに「動的平衡」ですね。
■動的平衡に気づいたきっかけ 福岡 福岡ハカセが最初に「動的平衡」に気がついたのは、少年時代にさかのぼるんです。そのときはまだ「動的平衡」という言葉は考えていなかったんですけどね。 そのころ、どちらかというと私は内向的な少年で、人間の友だちがいなくて、虫が友だちでした。夏休みの自由研究は、チョウを見つけてきて、それを育てることをやっていました。 チョウって、小さな卵をミカンとかサンショウみたいな柑橘系などの葉っぱに産みつけるわけです。卵からかえった幼虫はそれを黙々と食べて育っていく。
その幼虫はだんだん大きくなるんですけど、ある程度丸々と太ったら、サナギになりますね。でも、サナギのなかで何が起きているのかというのを少年時代のハカセは知りたかった。 それで残酷なんだけど、開けて調べてみたら、真っ黒などろどろの液体となって溶けている状態でした。もう、幼虫がいったん完全に破壊されちゃってるの。 小泉 へえ、それは考えたこともなかったです。 ■先回りして壊してから新しいものをつくる 福岡 いま考えると申し訳ないけれど、サナギを開けちゃうと、死んじゃうんです。もちろん開けないことがほとんどですよ。
開けずに待っていると、その真っ黒などろどろの状態のなかからあんなきれいなチョウが生まれるんです。それで、創造に先立つ破壊があるということが自然なんだなっていうことを何となく感じたわけ。 そうした経験から、生物学を勉強したいなと思ったんですけれども、大学に入ってみると「チョウとかきれいな昆虫とかを追いかけている場合じゃありません」という状況でした。 かわりに、分子生物学の潮流が満ちてきた時代だったのでそっちのほうに入っていっちゃったんです。