プーチンに来訪を招請、ベトナムは「ロシアがウクライナに勝利」を確信か
(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問) 【写真】お茶を飲みつつ会談するプーチン大統領と習近平国家主席 2024年3月26日、ベトナムのグエン・フー・チョン書記長はロシアのプーチン大統領と電話会談して、ベトナム訪問を招請した。プーチンは喜んで応じると回答し、その時期は両国で調整することになった。 5月16日から17日にかけてプーチンが中国を訪問することが決まると、ベトナムでは中国訪問の後にハノイに立ち寄るのではないかとの観測が流れた。だが、今回は見送られた。ベトナム訪問は6月になると見られている。 ■ 中世のイタリアで中立を決め込んだ国の末路とは プーチンのベトナム訪問はベトナムの国際社会での立ち位置の変更につながるとともに、ロシア外交にとっては大きな成果になる。 ベトナムはロシアとウクライナの両国と良好な関係を築いていた。ベトナムは兵器の多くを旧ソ連の時代からロシアに依存している。ベトナム戦争に勝利できたのはソ連のおかげと言ってもよい。また、旧ソ連の一部であったことからウクライナに留学した人も多い。筆者が顧問をしているビングループのファム・ニャット・ブオン会長もウクライナに留学している。そのような事情もあって、ベトナムはウクライナ戦争に対して中立を決め込んできた。 そのベトナムがプーチンの訪越を招請した。それは立場の変更を意味する。
戦争が起きた時に、どちらに付くかは善悪や正義の問題ではない。勝つ方に付かなければならない。戦いが終わってから旗色を鮮明にしても、勝った国から冷たく扱われるだけだ。国益を大きく毀損する。マキャベリはそのような外交では身を滅ぼすと500年も前に警告している。中世のイタリアでは、中立だった国は勝った国に攻め滅ぼされてしまった。 全方位外交を標榜するベトナムは500年前のマキャベリの忠告に忠実に従った。ベトナムはウクライナ戦争がロシアの勝利で終わると確信したということだ。 ■ 戦況は徐々にロシア有利に ベトナム戦争を経験したベトナムの軍部は、陸の戦争は人力と戦意で決まることを実体験から知っている。武器が少々劣っていても、兵士の数が多くかつ戦意が高ければ勝利できる。武器の優劣によって勝敗が決まるのは空戦や海戦であり、陸戦では武器の優劣は絶対ではない。そしてウクライナ戦争は典型的な陸戦である。 戦いの初期においてウクライナは善戦した。ウクライナは米国からロシアが侵攻してくる可能性を知らされていただけでなく、事前にヘリコプターを撃墜するためのスティンガーミサイルや対戦車ロケット弾などを供与されており、密かに訓練も受けていたようだ。米軍はロシアの侵攻が始まると、隣国に設置したレーダーや衛星データなどを使って、ウクライナにロシアのヘリコプター部隊の進路や戦車の位置などを教えた。その結果、ロシアは首都キーウ(キエフ)の急襲に失敗した。キーウを目指した多くの戦車が破壊されて、キーウを陥落させることができなかった。 この頃はロシアが敗北するとの観測が一般的だった。プーチンの健康不安説も取り沙汰された。しかしロシアは初期の作戦の失敗を跳ね返した。緒戦に敗れても戦意を失わない。いい意味での“鈍感力”がロシアの持ち味であろう。ナポレオンやヒトラーの侵攻の際にも、緒戦では敗れたものの、その後に粘り強く戦って勝利している。少々の犠牲を厭わない。それはロシアでは兵士の命が安いことを意味するが、戦争を勝利に導く上では欠かせない要素である。戦いが持久戦の様相を呈してくると、戦況は徐々にロシアに有利に展開し始めた。