長野県・八ヶ岳の麓で楽しむ “土地の食彩と器”。移住者が築いた レトロモダンな人気店2軒を巡る
幅広い知見を生かしてアウトドアカルチャーを提案するレーベル「焚火遊道」の猪野正哉さん、田中行太さんが、自然もグルメも街歩きも楽しめるウェルネスな日帰りトリップをコーディネート。 【画像】信州産のそば粉を使用した二八そばは絶品。 その第三弾は、長野県の茅野市と富士見町が舞台。いずれも南アルプスや八ヶ岳が一望できる景観のいい山麓の町で、移住者が手掛けるショップも年々増えているそう。そのなかでも、ほっと一息つける心地よい空間と地のものを使ったグルメが堪能できる2つの人気店を訪れました。
「この蔵と無農薬畑を守りたい」山崎夫婦の想いから始まった農家食堂「傍 / katawara」
八ヶ岳西麓を南北にのびる八ヶ岳エコーラインを走っていると、道沿いに白いモルタル壁の平屋と蔵が見えてくる。八ヶ岳の峰々を望み、広大な畑が広がるのどかなこの場所に佇むのが、農家食堂 「傍 / katawara」です。 太陽の光がたっぷり差しこむ店内に足を踏み入れると、笑顔がすてきな山崎夫妻が出迎えてくれました。 茅野で生まれ育ち、高校では同級生だったという山崎ご夫妻は、東京で働いていた20代に再会を果たして結婚。「これからの家族のあり方を考えていたとき、ふと自然に囲まれ過ごした子どもの頃の記憶が蘇り、この地に再び戻ることを決意しました」(高志さん) Uターン後、高志さんはそば店、居酒屋の仕込みなど、飲食店で修行を積んでいたそう。一方で、レストランを経営し、食に真摯に向き合ってきたさおりさんのご両親の無農薬畑を手伝ううちに、大切に守られてきた畑を途絶えさせてはいけないという気持ちが二人のなかで強くなります。そうして自然の力に任せた野菜作りに本腰を入れ、野菜本来の美味しさを多くの人に伝えていこうと「傍」をスタートしました。
「昔ながらのそば店である必要はない」僕らにしかできない無農薬野菜×そばの店
野菜と何かを組み合わせることで、この土地のよさを伝えたい。そんな想いから、地元で生産が盛んな“そば”をつくり始めた高志さん。「そばは県外の方にわかりやすく、地元の方にも馴染みのある食材。それを無農薬野菜とかけあわせたら、ユニークな店ができると思いました」 一番人気のもりそばは、そばの実の中心だけを使用した“白そば”と、殻まで入れた“黒そば”の2種類がセットになっています。最初はどちらにしようか迷ったという高志さん。しかし、両方とも捨てがたいので、手間を惜しまずどちらもやることを決めたそうです。 「白そばは繊細でするっとしたのど越し、一方で黒そばはコシのある力強い食感。それぞれの違いを楽しみながら食べられるので、最後まで飽きません」(平野) またそばつゆが2種類から選べるのもユニークな点です。オープン時から人気の定番「トマトつゆ」は、畑で収穫したトマトに出汁、醤油を加えて作られたもの。 「思ったより酸味は強くなく、トマトの旨みがしっかり利いている感じ。さっぱりと爽やかな風味で、そばとよく合います!」(佐竹さん) 一方、濃厚なコクを帯びた「クルミつゆ」の誕生にはちょっとした裏話も。「じつはこの辺り一帯は、かつて縄文人が住んでいたと言われているんです。遠い昔、彼らも食べていたであろうクルミを使うことで、この土地ならではのストーリーを含ませるのもおもしろいかなと思い、数年前から新たにクルミつゆも始めました」(高志さん) 「傍」のもうひとつの名物、ローストビーフ丼も忘れてはいけません。じつはさおりさんのご両親が営むレストランでも学んだ高志さん。ローストビーフのノウハウもバッチリ習得。国産牛にこだわり、下処理から調理加工まですべて自らの手で仕込んでいるそう。わさびとポン酢、隠し味に紫蘇の実の醤油漬けで仕上げたローストビーフ丼はまさに絶品です。 「おかげさまで今年10年目を迎えました。これまでの経験を活かした僕らにしかできないオリジナルティのある食事やサービス、空間を通してお客様に喜んでもらえるよう、これからも頑張っていきたいです」(山崎さん) 「傍 / katawara」 所在地 長野県茅野市泉野5931-100