「人生、効率よく歩まねば」という呪い…夫婦揃って「退職→1年半の旅」に出た2人に起きた事
日本での現実から距離を置いた日々を過ごすうちに、拓哉さんと詩歩さんに、少しずつ変化が訪れていた。拓哉さんはその変化を、「心の体質改善」という言葉で説明する。 「日本にいたときは、上司からの評価や世間体など、『人からどう思われるか』を気にしすぎていた。それによって、楽しさや喜びといった感覚を押さえつけていたのだと思います。でも、旅をしているときは人の目を気にせずにいることができた。そしたら、純粋に楽しさや喜びを感じることができるようになってきたんです。『心が体質改善できた』という感覚でした」(拓哉さん)
詩歩さんも、同じような変化を感じていた。 「私も、日本にいたときは周りからの見え方を気にしていました。でも、旅のなかでやりたいことをやっている人とたくさん出会い、『もっと自分を大切にしてもいいのかもしれない』と思うようになったんです」(詩歩さん) 「人からどう思われるか」という思考から、少しずつ解放されていった2人のなかで、気づけば「帰国して、こういうことをしたい」という会話が増えていった。 もう十分、心の体質改善はできた。そろそろ日本に帰って、お互いにやりたいことをしよう――。2人は旅に区切りをつけることにした。
1年半の旅で、訪問した国は15カ国。タイ、ベトナム、フィリピン、シンガポールといった東南アジアの国々と、メキシコ、グアテマラ、アルゼンチン、チリ、ボリビア、パラグアイ、ブラジル、ペルー、コロンビアといった南米の国。そして北米のカナダ、アメリカだった。 ■資本主義的な社会をうまく泳いでいく 帰国後、拓哉さんはスタートアップでバックエンドエンジニアとして働き始めた。異業種からの挑戦だ。今後も旅をしたり、海外移住をしたりすることも考えているため、リモートで働きやすい職種を選んだという。
詩歩さんは、CGクリエーターになるために講座に通っている。前職のときからクリエーターの仕事には興味があったが、「センスがないと無理だろう」と諦めていた。しかし旅を通して、年齢に関係なくやりたいことに挑戦する人々と出会い、「人生は一度なのだから、やりたいことは早めにやろう」と思うようになったのだそうだ。 旅をきっかけに、やりたい仕事へと一歩を踏み出すことができた2人。しかし、帰国から半年ほどが経った今、状況は変わってきているのだと、拓哉さんは苦笑いしながら教えてくれた。