「人生、効率よく歩まねば」という呪い…夫婦揃って「退職→1年半の旅」に出た2人に起きた事
詩歩さんが印象に残っているのは、グアテマラで出会ったある日本人女性だ。 「スペイン語を学ぶために留学に来ている女性がいました。年齢は21歳くらい。グアテマラに来てから半年くらいだそうで、1人で現地の市場に買い物に行って、ご飯を作って、すっかり現地となじんだ生活をしていて。私たちのことも『なにか困ったことあったら言ってくださいね!』と気にかけてくれるんです。彼女は行動力も自立心もすごくて、影響を受けましたね」(詩歩さん)
拓哉さんが思い出すのは、ペルーのアンデス山脈の麓町、ワラスでの光景だ。 「道端で、大きい風呂敷を持ったおばあちゃんたちが野菜を売っていたんです。そんなには売れていないのを見て、『この仕事で生活していけるのかな?』と心配しました。でも、あとでワラス在住の日本人に聞いたら、彼女たちは持ち家に住んでいるので家賃はかからないし、農作物は自給できるから食べることにも困らない。だから『たまに売れたらいい』くらいの気持ちなのでは、と。
それまで自分が当たり前だと思っていた、『家賃を払うために働くこと』や『懸命に働いて成長すること』が、実は当たり前じゃないんだと気づきました」(拓哉さん) 他にも、マラリアの研究をしながら、世界各地の研究所を転々としつつ旅をしているイタリア人女性、戦後パラグアイのイグアス地区に移住し、世界トップクラスの大豆農業を発展させた日本人たち、賃金が7倍であるカナダに家族で出稼ぎに来ていたメキシコ人たち……さまざまな出会いが、2人の価値観を揺さぶっていった。
■心の体質改善 旅をはじめて1年ほど経ったある日。2人はボリビアからパラグアイに向かうバスに揺られていた。ガタガタと揺れる車内で、拓哉さんは車窓の向こうで流れる景色を眺めながら、去年の今頃のことを思い返していた。「なんで俺、あんな頑張ってたんだろうなあ」と。 「去年の今頃は、周囲からのプレッシャーを感じながら盲目的に成長を目指して、その結果、燃え尽きたような感覚を感じていました。でも、『仮に仕事がうまくいかなかったとしても、そんなに大したことではなかったな』と思えたんです」(拓哉さん)