三谷幸喜の「5年ぶり新作」。長澤まさみ主演の「スオミの話をしよう」に入り交じる期待と不安
いつの間にかすっかり物語に引き込まれてしまうのだ。そして、後半に差し掛かるくらいには、ぼんやりと大まかなスオミの謎が読めてくる。わかる人はその辺りで彼女のほとんどを見通すかもしれない。 しかし、ラストで起こることまでは、誰も予想できないに違いない。観客が思い描いたスオミの事情には、さらに先があるのだ。そこから、ゴージャスなミュージカルに誘われる。三谷監督が演劇的な映画にしようとしたことが伝わってくるラストに、胸が熱くなった。
もともと演劇界の人である三谷監督が、思いきり自身の原点に振り切って制作に挑んだ本作は、前述の韓国の映画祭ディレクターの言葉を借りれば「三谷作品の集大成となる傑作」。その言葉どおりだと感じる。 撮影スタイルから、舞台演劇的な芝居演出、映像作品としての見せ方まで、三谷監督が舞台演劇に寄せることにこだわった映画作りへの挑戦が、結果として、こういう作品になった。 ■人によって評価が分かれそうな作品 一方で、クセが強い作品でもある。一般的な映画よりも、人によって感じ方や評価が大きくわかれそうな映画でもある気がする。
そういえば、酷評された『ギャラクシー街道』も演劇的な映画だった。もしかすると、似ていると感じる人も少なくないかもしれない。 いずれにしても今年の話題作になることは間違いない。エンターテインメントシーンを牽引するクリエイター・三谷幸喜監督の思いが詰め込まれた最新作は、自分の人生を豊かにするためにも、世の中の話題に取り残されないためにも、鑑賞する意味のある映画だ。
武井 保之 :ライター