■　規制との戦い 　課題はまだある。その中でも重要なものは国や自治体が定める規制との闘いだった。最初に規制が顕著になったのは2010年のニューヨークだ。ニューヨークをはじめ、いくつかの都市では規制当局が譲らず、エアビーアンドビーの拡大を抑えたい他の民泊サイトや従来のホテル業界でも反エアビーアンドビーの運動が起きた。 　エアビーアンドビーのビジネススタイルは、複数物件を掲載するプロホストを生み出すようになり、地価高騰を招く。また、見ず知らずの他人が自分の住むマンションに出入りすることに対する住民の不満もあった。 　そんな争いの中でエアビーアンドビーを支えたのは大勢のファンたちだった。ユーザーが多い分、ユーザーも巻き込んだ活動をすることができ、論争の中心であるニューヨークでも賛成派は反対派を上回っている。 　その後もエアビーアンドビーは成長を続け、2015年にはリオ五輪の公式サプライヤーになり、2019年にはIOCとパートナーシップを結ぶなど、世界中でそのビジネスは評価されていった。2020年にはNASDAQに株式公開を行い、エアビーアンドビーは上場企業となる。現在もAIを活用した利便性の拡大や安全性の確保のためのツール開発を続け、今日に至るまでエアビーアンドビーは進化し続けている。 　チェスキーはなぜイノベーションに成功したのだろうか？　　まず1つ目は、既存の大企業が手を出せないアイデアであったことだ。 　アイデア自体の新規性を考えると、部屋の共有自体は実は誰でも思いつきそうなアイデアであり、実際に部屋を短期間貸し出すような小規模なサービスは既に存在していた。しかし、見ず知らずの他人に部屋を貸すようなサービスを大々的に展開するのは多くのリスクを伴うことが明らかだったため、誰もやろうとしなかったのだ。 　特に大きかったのは、既存の大企業との競争が発生しにくかったことだろう。エアビーアンドビーが打ち出したサービスは、ゲスト、ホスト双方に危険性が伴うという点から、リスクを嫌う大企業は手を出せなかった。これは動画共有サイトが著作権の問題に抵触するリスクがありグーグルのような大企業が手を出せず、ベンチャー企業であるYouTubeが最初にサービスを世に出したことと似ている（のちにYouTubeはグーグルが買収した）。 　このように、スタートアップの仕組みを用いて市場から直接に資金を調達し、既存企業ができない領域を開拓したことに彼らの成功の一因がある。