黒田サプライズはないのか? 日銀会合「総括的検証」を総括的に予想する
Q:「総括的検証」で根本的な金融政策の変更がある可能性は? A:あるとすれば、日銀法の改正も視野にデュアルマンデート(2つの目標)の採用が議論される可能性。現在、日銀の目標は「物価安定」のみだが、連邦準備制度理事会(FRB)のように「雇用最大化」も同時に担う方が金融政策の自由度が増すという理解に基づく。20年近く続いた物価下落の下で消費者の「物価上昇に対する抵抗感」が強まっているほか、年金生活者の生活防衛意識がインフレ目標達成の阻害要因になっているため、「物価安定(≒上昇)」というシングルマンデートだと、人々が金融緩和策に理解を示さなくなる。この点は、黒田総裁が5日の講演で触れたようにマイナス金利政策の「心理面への悪影響」とも関係する。雇用最大化(≒賃金上昇)を政策目標に追加すれば、「賃上げのための黒田バズーカ」といった具合に金融緩和に対する理解も得易くなるのではないか。べき論でいえば、日銀は「物価と賃金は理論的にも実証的にも概ねパラレルに動くものだ」との説明をもっと繰り返すべきだ。大部分の国民が物価上昇を歓迎していない現実を自らの調査で突き付けられているのだから、日銀はもっとそれを認識すべき。
物価目標2%は継続していくつもりなのか?
Q:2%目標の引き下げは? A:「消費者物価の前年比上昇率2%」という目標が変わることはない。また、2%±0.5%というような柔軟化も見込まれない。 Q:それでは、このまま2%の物価目標を追い続けるのか? A: 筆者が従前から指摘しているのは、日銀が別の尺度を重視する路線に舵を切ること。今回の「総括的検証」がターニングポイントになる可能性がある。すでに日銀は原油価格下落に対応して、日銀版コア消費者物価指数(CPI、生鮮食品・エネルギーを除いたベース)を重視しているが、2015年10月の展望レポートで「公共料金や一部のサービス価格、家賃などの価格硬直性が想定以上に強い場合には、CPIの上昇率の高まりを抑制する要因になる」と指摘していることが注目される。こうした経緯を踏まえ、公共料金と家賃の“クセ”を加味した物価指標を重視する可能性があるとみている。「総括的検証」で家賃と公共料金の低位粘着性について議論された場合、エネルギーの他に帰属家賃など下方硬直性の強い品目を除いた“日銀版コアコア物価”が登場するかもしれない。ちなみに、日銀(関係者)が問題視している「持ち家の帰属家賃」を除いたベースの物価は2%程度に到達した実績があるので、この尺度を重視すれば出口は随分と近くなる。今回の総括的検証において「公共料金」や「家賃」が主役級の存在感を示すかもしれない。また、この場合「出口」が一気に近づくのは言うまでもない。「2%は無理」、「まだまだ金融緩和は続く」といった市場参加者のコンセンサスが突如として修正を迫れられる可能性に注意したい。