球団からの問いかけに即答「辞めます」 黄金期真っ只中、悟った限界「無理だな」
2018年限りで現役引退…2024年はカープジュニアで4度目の監督を務めた
10月4日の巨人戦(マツダ)が天谷氏の引退試合となった。「1番・中堅」で出場し、初回の守りでは中飛を処理した。「(広島の)ピッチャーが(野村)祐輔だったんですけど、センターフライを打たれるようなボールを投げていたらしいです」。その裏の最後の打席は、相手は菅野で捕ゴロだった。天谷氏は笑いながら「キャッチャーゴロで終わる人ってなかなかいないと思うんですよ。菅野はタイトルがかかっていたし、真っすぐは投げてきませんでしたね」。 すべてが思い出になった。ボール、空振り、捕ゴロ。「妻には三振だけはやめてくれって言われていたんですよ。凡退してもいいから一塁まで行く姿を見せてくれってね。それがまさかのキャッチャーゴロという奇跡でしたね」と明るく話した。 試合後にはセレモニーも行われた。「なかなかそういったことをやってもらえる人は少ないですし、『やるか』って言われて恥ずかしかったので悩んだんですけど、せっかくそう言ってもらえたし、ファンの皆さんにお礼を伝える場としてもいいのかなと思って『やらせてもらいます』と返事しました。やってよかったと思います」。ナインから胴上げされたが「回数とか覚えていないです」と笑った。 17年間、カープ一筋でプロ生活を終えた。通算成績は844試合、打率.255、27本塁打、159打点、81盗塁。右肩も左肩も痛めるなど、故障につきまとわれた。それでも天谷氏は「打った打たないより怪我が残念だったと思いますけど、まぁ、そこも含めて自分なんで……。17年もよくできたなと思います」と謙虚な言葉に終始した。 現在は野球評論家として活動中。2024年は通算4度目となるカープジュニアの監督も務めた。「一番最初に見たジュニアの子が高1になりました」。“教え子”の成長は楽しみのひとつでもある。「17年、カープでやらせてもらった恩をまだちょっとしか返せていないと思うので、どんな形でもいいから、カープとか広島に返していけるように頑張るしかないと思っています」と話した。 福井県鯖江市立中央中学の軟式野球部・川上一規先生をはじめ、天谷氏の野球人生は多くの人との出会いがあって成立している。それはこれからも続いていく。41歳。気がつけば福井よりも広島での生活が長くなった。ホームランキャッチで一世を風靡した男は広島への恩返しに熱く燃えている。
山口真司 / Shinji Yamaguchi