後半ラストプレーの決勝点はまじめに積み上げてきた努力の結晶!「最弱世代」の新潟明訓が「最強世代」の夏の全国3位・帝京長岡を撃破してファイナル進出!:新潟
[11.2 選手権新潟県予選準決勝 帝京長岡高 0-1 新潟明訓高 長岡ニュータウンサッカー場] 【写真】影山優佳さんが撮影した内田篤人氏が「神々しい」「全員惚れてまう」と絶賛の嵐 悔しい想いばかりを突き付けられてきた。周囲から呼ばれてきたのは『最弱世代』という屈辱的な称号。ただ、自分たちの力は自分たちが一番よくわかっている。それならばまじめに走って、まじめに攻めて、まじめに守って、まじめに頑張るしかない。それをひたすら磨き上げてきたことで、いつしかチームには折れない心が、着実に育まれていたのだ。 「自分たちは1年生のころから『最弱世代』と言われて、逆に帝京長岡は『最強世代』と言われていて、天と地ぐらい差があったんですけど、この試合でやっと引っ繰り返すことができたので、今までやってきたことが報われて良かったと思います」(新潟明訓高・斎藤瑛太) 『最強世代』に堂々と立ち向かった『最弱世代』の執念、実る。第103回全国高校サッカー選手権新潟県予選準決勝が2日、長岡ニュータウンサッカー場で行われ、夏のインターハイベスト4の帝京長岡高と新潟明訓高が激突。後半40+3分にFW田代蓮翔(1年)が決勝点を叩き出した新潟明訓が、劇的な勝利を収めている。10日の決勝では開志学園JSC高等部と対戦する。 朝から降り続く雨の中でキックオフを迎えた一戦は、序盤から新潟明訓が攻守に一体感を持って立ち上がる。「正直自信は半々ぐらいでしたけど、前半の10分ぐらいで『ああ、全然やれるな』と感じました」と口にしたのは、左サイドバックのDF勝天嶺(3年)。チームを率いる坂本和也監督も「ゲームの入りからアグレッシブにボールを奪いに行く守備で、相手のコートでやろうというところがうまくハマりましたね」と話した通り、前線からFW斎藤瑛太(3年)が掛けるプレスがスイッチになり、アグレッシブな守備を敢行。最終ラインもDF福原快成(3年)とDF加藤祐羽(2年)のセンターバックコンビを中心に、相手のアタックの芽を丁寧に潰していく。 15分の決定機は新潟明訓。勝の縦パスから、MF桑原壮汰(3年)が左サイドを切り裂いてクロス。ニアに入ったFW大森健司(3年)のシュートは帝京長岡GK小林脩晃(3年)がファインセーブで凌ぐも好トライ。19分にも桑原を起点にMF木間司(2年)の左クロスを、斎藤が合わせたシュートは帝京長岡のキャプテンを務めるDF山本圭晋(3年)が身体でブロックしたものの、桑原をポイントに新潟明訓がチャンスを続けて作り出す。 一方の帝京長岡はプレミアリーグでも有数の2トップ、仙台内定のFW安野匠(3年)とFW新納大吾(3年)までボールが届かず、攻撃もやや単発に。守備面でも右サイドを崩される展開を受け、MF遠藤琉晟(3年)をボランチからサイドバックにスライドさせて対応。思うようにリズムを掴めない中で、前半の40分間はスコアレスで終了する。 後半も先に決定的なチャンスを迎えたのは新潟明訓。13分。右からMF風間聖来(3年)がシンプルに入れたアーリークロスを、桑原は抜群のスピードで飛び出したGKより先に収め、無人のゴールへフィニッシュ。軌道は枠を超えたものの、「彼は負けん気も強いですし、凄いです」と指揮官も認める7番が、帝京長岡に個の脅威を突き付ける。 24分は帝京長岡にビッグチャンス。後半から投入されて攻撃を活性化させていたDF池田遼(3年)が、ここも左サイドを鋭く運んで中へ。ニアに走り込んだ新納のシュートは、新潟明訓GK加藤俐功(3年)がビッグセーブで掻き出すも、帝京長岡はMF水川昌志(3年)とMF香西大河(3年)の配球も冴え出し、池田とMF和食陽向(1年)で組んだ左サイドの推進力を生かしつつ、ジワジワと攻撃の時間を増やしていく。 ただ、新潟明訓は焦らない。「押し込まれる時間帯があることはチームとしてわかっていたので、そこをみんなで守る、耐え抜くということは意識していました」(斎藤)「相手にボールを持たれる時間は長くなると思っていたので、そこを跳ね返していけたことで、少しずつ自信を持って守れたと思います」(勝)。全員で、着実に、ゴール前へ堅陣を敷き続ける。 40+1分。帝京長岡に決定的なシーンが訪れる。ここも和食が池田とのワンツーで左サイドを抜け出し、マイナスの折り返しを中央へ。新納は粘り強くキープしたボールを左足でシュートまで持ち込むも、果敢に間合いを詰めた加藤俐功がビッグセーブで仁王立ち。スコアは動かない。 勝負を決めたのは「迷ったんですけど、『オレ自身が引いちゃだめだ』と思って、攻めの姿勢で行きました」という坂本監督が送り出した1年生ジョーカー。40+3分。右サイドで諦めずにボールへ食らい付いた桑原がクロスを上げ切ると、ファーに潜ったFW椿泰一郎(3年)は迷わずシュート。3分前に投入されたばかりの田代が左足でコースを変えたボールは、ゴールネットへ吸い込まれる。 「あそこは直感でした。入る前から『ゴールを決める』という気持ちで入っていたので、決められて良かったです」(田代)。帝京長岡の下部組織に当たる長岡JYFCからやってきた1年生が、この重要な局面で果たした大仕事。そして、直後にタイムアップのホイッスルが鳴り響く。 「最初は全然実感が湧かなかったんですけど、応援団のところに1つ上の先輩たちがいっぱいいて、その人たちの顔を見たり、声を聴いて、やっと『勝ったんだな』という実感が湧きました。マジで涙が止まらなかったです」(斎藤)。全国有数の実力を誇る帝京長岡相手に、後半ラストプレーで決勝点を叩き込む超劇的勝利を飾った新潟明訓が、9大会ぶりとなる全国切符に王手を懸ける結果となった。 「今年の代はずっと『史上最弱』と言われてきました。それこそ帝京長岡さんは1年生の時にルーキーリーグで全国優勝している代なのに、僕らはそのころからまったく歯が立たなかったですし、彼らは去年もまったく試合に出られない代だったんです」(坂本監督)。2024年の冬。新潟明訓の選手たちは大きな不安を抱えながら、新チームを立ち上げていた。 やるしかなかった。もうこれ以上『史上最弱』だなんて言わせない。「筋トレだったり、走り込みだったり、栄養指導だったり、そのあたりは結構やってきました。そこからフィジカル面をいかにサッカーに繋げるかというところで、『終盤まで運動量が落ちない』『球際のところに行ける』『切り替えも連続していける』というのは意識してきました」(坂本監督)。来る日も、来る日も、とにかく地道にトレーニングを重ねていく。 もちろんすぐに成果が出るわけではない。ただ、今年のチームには“ある能力”が備わっていた。「僕たちは『練習を凄くまじめにできる代』なんです。みんな本当に熱量があって、みんな本当に反骨心があるので、練習で試合以上のことを意識して、そこで強くなろうというのは意識していました」(斎藤)。苦しい走り込みも、キツい筋トレも、みんなでまじめに、100パーセントで、やり切っていく。 「みんな仲が良くて、ネガティブなことを言う子がいないんですよ。僕らが厳しいことを言っても『じゃあ頑張ろう』というメンタルになりますし、苦しい練習にも常に前向きで、『オレらはこれをやって強くなるんだ』というメンタリティがメチャクチャあるので、今年の代にはどんどん言ってやろうと思って、どんどん叩いています(笑)。本当に気持ち良い子が多いですね」(坂本監督) 挑んだプリンスリーグ北信越1部では、開幕から9戦無敗という結果を残し、選手権予選の中断前までで、首位と勝点3差の2位をキープ。「いつもキツい練習に耐えているので、試合はもうやるだけだと思って、楽しんでできています」と笑うのは斎藤。少しずつ、少しずつ、彼らは自分たちの中での自信を深めていく。 その先で引き寄せた、『最強世代』と称される帝京長岡を撃破してのファイナル進出。「高校生の伸びしろだったり、火が付いた時の力はたまらないですね」と坂本監督が話せば、「このままで大丈夫かなという不安もあったんですけど、今年の冬から筋トレも走りも練習も、全員で全力で取り組んできたので、それが結果に結び付いて本当に良かったです」と勝も笑顔。コツコツと積み上げてきたものが、難敵相手の80分間で過不足なく爆発した。 だが、まだ大一番が1試合残っている。チームを支えるOBの加藤潤コーチがキャプテンとして出場した94回大会以来、9大会ぶりの全国切符を懸けたファイナル。会場はデンカビッグスワンスタジアム。舞台は完璧に整った。 田代同様に長岡JYFC出身で、この日の試合後は旧知の帝京長岡のスタッフ陣からも激励を受けていた勝は、強い口調でこう言い切った。「決勝は緊張せずに、思い切り楽しみたいと思いますし、前回勝った中越にもJY(長岡JYFC)出身の人がいっぱいいたので、その人たちや今日負けた帝京長岡の分まで想いを背負って、絶対に優勝したいなと思います」。 苦しんできた『最弱世代』が狙う、新潟明訓史上最強の下克上。最高の会場で、最高の結果を手繰り寄せ、最高の笑顔で喜ぶため、この1週間も彼らはこれまでと何ひとつ変わることなく、まじめに、全力で、勝利に必要なことを、全員で積み上げていく。 (取材・文 土屋雅史)