鈴鹿1000km開催決定に感じる“葛藤”。スーパーGT“夏の風物詩”としての復活なら尚良かった!|英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記
今年6月、“鈴鹿1000km”がIGTC(インターコンチネンタル・GTチャレンジ)の一戦として2025年に復活を果たすことが発表されました。これは多くの人々にとって驚きだったと言えます。 【ギャラリー】鈴鹿10H レーシングカー公道パレードに1万人超が参加 IGTCのオーガナイザーであるSROは、コロナ禍によって鈴鹿戦が開催されなくなって以降も、その復活を切望していることを公言してきました。鈴鹿が2025年のカレンダーに組み込まれることは、スパ24時間の直前にそれが明らかになるまでほとんど期待されていなかったようです。 個人的には、このニュースにある種の葛藤のようなものを感じています。 鈴鹿1000kmと、IGTCで短命ながら行なわれた鈴鹿10Hは、日本のレースカレンダーにおいて常に重要な位置を占めてきましたし、IGTCの1戦と言えどそれが復活することは良いニュースです。しかしこれは一方で、近い内にスーパーGTのカレンダーに鈴鹿1000kmが戻ってくる可能性がほとんどないことを意味します。これは残念なことだと思うのです。 本題に入る前に、来年の鈴鹿1000kmがどのようなレースとなるのかおさらいしましょう。IGTCではバサースト12時間、ニュルブルクリンク24時間、スパ24時間、そしてインディアナポリス8時間といった耐久レースが開催されますが、鈴鹿1000kmは2025年の第4戦として9月に開催予定。日付は明らかになっていませんが、9月12日~14日の週末になると思われます。 そして鈴鹿1000kmでは以前の10Hと同様、特にアジア太平洋地域を拠点とする国際的チームの参加が予想されます。候補としては例えばクラフトバンブー、アブソリュート・レーシング、HubAutoやGruppeMなどが挙げられます。また、2019年の10Hを制したWRTが、2輪ロードレース界の伝説であるバレンティーノ・ロッシをドライバーとして引き連れて参戦したとしても驚きではありません。 そして、SROが運営するGTワールドチャレンジ・アジアの参戦チームから、鈴鹿1000kmに出てくるチームが現れるのは間違いないでしょう。実際、GTアジア岡山ラウンドの2週間後に開催される鈴鹿1000kmは、GTアジアのレギュラーチームの参戦が推奨されています。また、同じ週にはSROの“ジャパンカップ”が併催され、チームが鈴鹿1000kmとジャパンカップの両方に参戦することも可能となっています。 やはり一番気になるのは、スーパーGT勢の参戦が見られるのかどうかという点です。5年前の鈴鹿10Hでは、グッドスマイルレーシングやドラゴコルセ、TEAM UPGARAGE、Team Hitotsuyama、LMコルサ、そしてJLOCなど、数多くのチームがグリッドに並びました。SROは間違いなくこういったチームの参戦を歓迎するでしょうが、チーム側にとっては鈴鹿1000kmの翌週にスーパーGTのSUGOラウンドという過酷なスケジュールとなるため、これがネックになるかもしれません。 そしてSROは来年のレースで25台の出走をターゲットに設定していますが、これは2019年の鈴鹿10Hに36台が出走したことを考えると、控えめな目標設定と言えます。近年のGTワールドチャレンジ・アジアの盛り上がりを考えると、非日本国籍のアジア系チームの割合が高くなると考えるのが自然でしょう。 また、IGTCのカレンダーに鈴鹿1000kmが長期的に残っていけば、このイベントは時間が経つにつれて成長していくでしょう。ただ、FIA GT3車両のみで争われるこのレースが、かつての“夏の風物詩”にふさわしい一大イベントにまで成長するかと言われれば、少し希望的観測になってしまう感は否めません。 2025年の鈴鹿1000kmは、スーパーGTのプロモーターであるGTアソシエイションが公式のパートナーとして関わっていた2018年と2019年の鈴鹿10Hとは異なり、やはりスーパーGTレギュラー陣の数は少なくなる可能性が高く、スーパーGTファンへのアピールは限定的になると思われます。これは多くの関係者にとってチャンスを逃すことになるでしょう。 逆にGTAが2025年のスーパーGTカレンダーにマレーシアのセパン戦を追加したことは賞賛に値します。海外レースの開催については、私がこのコラムを通して何度もその必要性を訴えてきたものです。2025年のカレンダーにおいてGTAが優先したのが鈴鹿1000kmへの関与ではなく海外レースだったとしたら、私はその決定を批判できません。 しかしながら、仮にGTAが鈴鹿1000kmの復活を望んでおらず、現実的ではないと判断していたとしても、セパンとの契約だけで安心しているわけではないでしょう。鈴鹿1000kmが開催できなくても、今のスーパーGTが象徴的レースを作れない訳ではありませんし、既存のレースのステータスを高めるなどの検討が必要です。 一例としては、最も観客を集めるゴールデンウィークの富士ラウンドを500マイルレースにまで拡大して、かつての鈴鹿1000kmのような特別感を出したり、セパン戦のフォーマットを何らかの形で変更してより国際色豊かなレースにするなど……。 もちろん、以前にも書いたように新しいイベントを開催して、それをファンやメディアに対して根付かせて一大イベントとしての地位を確立されるには時間がかかります。私は鈴鹿1000kmをそのまま復活させることが、シリーズで特に価値と権威のあるインディ500やル・マン24時間のようなレースを醸成するための最短ルートだったのではと感じますが、例え最短ルートではないにしても、そういったアプローチで取り組んでいくことは長い目で見れば間違いなく意味があると思います。
Jamie Klein