『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』真紅に染めあげられた、シリーズの“特異点”
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』あらすじ 前作に引き続き描かれる冒険物語。今作では新たな英雄たちが銀河の伝説的人物と共に壮大な冒険に繰り出し、フォースの新たな謎と過去の衝撃的な真実を解き明かす。
懐古主義からの方向転換
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17)は、既存の「スター・ウォーズ」フォーマットを内部から破壊してしまった特異点である。 シークエル・トリロジー(続三部作)の一作目『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)が、旧三部作のスピリットを受け継ぐ懐古的作品だったのに対し、本作はこれまで積み上げてきた歴史をうっちゃってしまうくらい、挑発的で革新的。ライアン・ジョンソンが提示したオルタナティブな「スター・ウォーズ」は、オールドファンを心胆寒からしめた。 挑発的といっても、別にトリッキーな構造を有している訳ではない。むしろ本作は、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(80)をおもいっきりリファレンスしている。『フォースの覚醒』が、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)を思いっきりなぞっていたように。 ①敵に秘密基地の位置を突き止められて、撤退する ②味方が二手に分かれる ③主人公が師匠のもとで修行する ④師匠の制止を振り切って、主人公が戦いに向かう という大枠の流れは、まんま『帝国の逆襲』。特に水の惑星オク=トーで隠遁生活を送っていたルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)が、レイ(デイジー・リドリー)に修行を積ませるシークエンスは、かつてのルークとヨーダの師弟関係を思い起こさせる。 『帝国の逆襲』には、洞窟でルークがダース・ベイダーの幻影を打ち倒すと、そのマスクの下から自分自身が現れるという驚愕のシーンがあった。己のなかにダークサイドを見出す悪夢的展開。だが『最後のジェダイ』でライアン・ジョンソン監督は、それ以上の試練をルークに課す。かつて弟子だったカイロ・レン(アダム・ドライバー)から強烈なダークサイドの影を嗅ぎ取り、彼の命を奪おうとしていたという、壮絶トラウマ体験を与えてしまったのだ。ジェダイ・マスターとして(というか、人として)あるまじき行為。その悔恨から、彼は人目を忍ぶような生活を送るようになる。 「あなたがこのキャラクターに対して行ったすべての選択に、僕は根本的に同意できない」(*1) 『最後のジェダイ』の製作時に、ルーク・スカイウォーカー役のマーク・ハミルは、ライアン・ジョンソンにこんな言葉を投げかけたという。もちろんプロフェッショナルとして、「今の僕の仕事は、あなたのビジョンを実現するためにベストを尽くすことだ」とも語っているのだが、マーク・ハミルがこの映画に忸怩たる想いを抱えていたことは間違いない。かつて共和国を救い、銀河系を救った伝説的英雄の姿は、もはやそこにはないのだ。