『クラユカバ』『クラメルカガリ』塚原監督が語るノスタルジックな幻想世界
群像劇と私小説的世界
――一方で『クラメルカガリ』は、クリアでこそないですが『クラユカバ』に比べるともう少し明るい作風です。 塚原 明るいですね。先ほども言ったように、『クラユカバ』を作って“憑きもの”が落ちた結果かもしれないです。 ――『クラメルカガリ』は成田良悟さんの短編小説がシナリオ原案です。その点も『クラユカバ』との感触の違いに関連するのでしょうか。 塚原 どうなんですかね。成田さんが自分の世界観に寄せて書いてくださっているので、成田さんの原案でありつつ“自分の庭”のような感覚はありました。でも、キャラクターの動き方などは確かに自分の発想にはないもので、そこはありがたかったですね。 ――原案となる短編を読んだ時、最初はどんな印象を受けられましたか? 塚原 最初は「恥ずかしいなぁ……」と(笑)。自分の過去作からネタをいろいろ拾ってくれていたのですが、特に学生の頃に作った設定などは持ち出されるとちょっと照れくさかったです。でも小説としては非常に面白いし、クラウドファンディングの返礼用に書いていただいた小説だから読む人も限られるので、まあ良かった。成田さんありがとうございました! という気持ちだったのですが、その後「映画になるよ」と聞かされて「えっ、どうしよう?」と。プロットが面白いのは間違いないのですが、そういう“過去の自分”との折り合いをどうしようかなと少し悩みました(笑)。 ――なるほど(笑)。 塚原 でも、そういう部分もありつつ、純粋に映画として面白いモノを作ろうという気持ちが大きかったかな。 ――こちらもカガリという主人公が魅力的です。成田さんが生み出したキャラクターを描いてみて、手応えはいかがでしたか? 塚原 カガリ、可愛いですよね(笑)。可愛いキャラになってよかった。カガリも実は難しいんです。捉えどころのないフワフワした雰囲気を持っていますから。 ――カガリは可愛くて魅力的ですが、観ている側に妙に媚びてこない。『クラユカバ』のキャラクターにも通じるのですが、あざとさがないのが気持ちよかったです。 塚原 ああ、そこは確かに。はっきりと意識はしていないですが、そうなっていますね。みんな自由に生きている感じです。カガリを演じた佐倉綾音さんもオーディションのテープを聴かせていただいて、カガリのセリフを読んでもらった声ももちろんですが、その前の自己紹介の雰囲気、ご本人の素のままがいいなと思ったんです。だから収録現場でも「普段のしゃべり方でやってください」とお願いしました。そういうところも作っていない感じというのかな、言葉にすると安っぽくなってしまうけれど、いわゆる“天然な雰囲気”につながったかと思います。 ――『クラユカバ』と『クラメルカガリ』を2本並べて観ることで、お互いの魅力がより引き立つようにも感じます。 塚原 ああ、そうだとありがたいですね。 ――監督としてどちらから先に観てほしいという意向はありますか? 塚原 いえ、それはないです。どちらから観ていただいても問題ないように作っていますし、逆に、片方を観たらもう片方も観てほしいと思います。というか、きっと1本観たらもう1本が気になるはずです。それぞれのオススメポイントを言うならば、『クラメルカガリ』はいろいろなキャラクターがわちゃわちゃしている群像劇として楽しんでほしいですね。そして『クラユカバ』は荘太郎というキャラクターを通してクラガリに深く、深く潜っていくような雰囲気、より主観的に没入するような映画になっていると思います。その違いもぜひ、楽しんでいただければ嬉しいです。 ※塚原監督の「塚」は正しくは旧字体です
鈴木 雅展