『クラユカバ』『クラメルカガリ』塚原監督が語るノスタルジックな幻想世界
神田伯山の声で形になった主人公像
――『クラユカバ』はまず荘太郎という主人公が非常に魅力的でした。どこか鬱屈して自堕落にも見えるし、心の内に何か秘めているようにも見えるし。 塚原 荘太郎はまさに、鬱屈していた時期の自分なんですよ(笑)。特に序盤の荘太郎のウダウダした感じは、企画が決まらずにウダウダしていた頃、昼過ぎに起き出してグズグズして……みたいな毎日を送っていた自分の色が濃いと思います。もちろん魅力的な主人公にしたいと思っていましたが、オリジナリティもほしい。それって何だろうと考えたら、自分を投影するしかない。自分を投影した分だけ客観性がなくなりますが、かわりに解像度は無限大にあがるんじゃないか、と感じて意図的にそうしました。そんなキャラクターが、神田伯山さんに演じていただいたことで自分から離れて、独立した一個の“人格”になったんです。 ――伯山さんをキャストに選んだのは監督ご自身ですか? 塚原 最初は、本編で稲荷坂というキャラを演じた活動弁士の坂本頼光の推薦でした。彼とはもう長年の友で昔の短編にも出演してくれているのですが、彼が伯山さんとも友達で、まだ伯山になる前の神田松之丞時代から「すごくいいよ! 紹介しようか?」と言われていたんです。そうしたら今作で、プロデューサーから「神田伯山さん(に出演してもらうのは)どう?」という意見が出て。そこでつながって、「なるほど、いいかもしれない」となりました。ただ、現場で最初のセリフをしゃべってもらうまでは正直、冒険でした。荘太郎というキャラクター自体がまだ自分と切り離せていない時期だったので、「このキャラクターはどういう声なんだろう」とまだ客観的に言語化できていなかったんです。でも、伯山さんが最初のセリフをしゃべった瞬間に「ああ、荘太郎だ!」と感じられて。その時に荘太郎というキャラクターが生まれた、伯山さんが荘太郎を独立した存在に具現化してくれたと思います。 ――個々のキャラクターや背景、ガジェットももちろん魅力的ですが、何より映画全体から漂ってくる雰囲気が独特で惹かれました。「どんな画面を作るか」という大きな方向性はあったのでしょうか。 塚原 言語化するのは難しいです。実際に観ていただいて「こういうことだよね」としか言いようがないのですが……でも、何となく「湿度」を持った世界を描きたいというのは大きいかもしれないです。全体に澄んだ空気の場面は少ないはずです。 ――全体に空気がどこか淀んでいて、透明感のない世界。 塚原 世界に謎が多く含まれていますが、それは主人公からは見えない――何が見えて何が見えていないかは、かなり意識して作っていて、それを「空気の層」で表現するということはやっているかなと。あとは、荘太郎と関わるタンネというキャラクターが、『クラユカバ』という作品全体のある種の妖艶さの代表格と言えますね。別に直球でセクシーではなくカラッとしているけれど、そこから妖しさとドライさ、そして少しのポップさも漂う。作中の「クラガリ」という概念をキャラクターとして体現しているのはタンネなのかなと思います。 ※塚原監督の「塚」は正しくは旧字体です