正月特訓ではハチマキを巻いて熱い授業も! 早稲田アカデミーの2024年中学入試報告会をレポート
入試問題は知識量だけでなく、論述する問題も増加!
第二部は科目別の入試問題分析だ。早稲田アカデミーの各科目の責任者が登壇し、2024年度の中学入試問題の傾向や対策法について解説した。 国語:問題文に新しい作品が採用される傾向 国語科責任者の本多弘篤先生が登壇し、入試問題を分析する。 国語では問題文にどの文章が採用されるかが注目されるが、早稲田アカデミーが分析対象としている中学校の入試問題の約50%は、直近2年以内に発表・発刊された作品から出題されている。中学校としては、塾のテキストや模試で使われていない文章から出題し、受験生が「初めて見る文章」をその場で読み解く力を試したいからだ。 2024年度の問題を見ていくと、説明的文章では哲学者・戸谷洋志氏の「コミュニケーション」を題材にした文章、生命環境科学の研究者である市橋伯一氏の「ヒト」について論じた文章に注目したい。説明的文章はどうしても時事的なテーマが多くなりがちだが、平時に戻りつつある2024年は、時事的なテーマというよりも「普遍的な人間の本質」をテーマにしたものが目立った。 この流れを考えると、今後は時事的なテーマに気を配りつつも、オーソドックスなテーマの文章も決して軽視してはならないだろう。早稲田アカデミーでは、普遍的なテーマや定番の問題での得点力はメインテキストの『予習シリーズ』で鍛え、時事的なテーマや新傾向問題への対応はオリジナルテキストで行うことで、変化する入試に柔軟に対応している。 算数:特色のある問題や初見の問題の多様化が見られる 次に算数科責任者の松山圭介先生が壇上に登場した。中学受験の算数は三部構成で作られる。 (1)計算や単位換算といった基礎学力を問う問題 (2)中学受験に向けてしっかり学習をしてきたことを確かめる典型問題と呼ばれるもの (3)学校ごとに特色のある問題や初見の問題 難関中学校の入試については、この中でも(3)の問題をいかに解けるかで合否が決まってくる。中学校側も、この(3)の部分を工夫して問題を作成している。 そのため、今回の解説は(3)を中心に展開されたが、注目されるのは出題形式の多様化だ。頌栄女子では場合の数の基礎計算を題材に、なぜその計算で求められるのかという理由を記述させる。公式を覚えるだけではなく、なぜその公式になるのかを理解しておく必要がある。 また、表やグラフなどのデータを提示する問題も目立ってきており、データ分析の問題は今後も増えそうだ。今後は頌栄女子の問題で見られたように自分の考えを表現する力はもとより、また長くなってきている問題文から正確に情報を読み取る力、そしてデータを分析し、検証する能力も必要だ。 社会:日常の「はてな」を習慣的に意識する 社会科については、責任者の村松優河先生が解説した。まず中学入試における社会という科目は、世の中の動きをリアルタイムで反映するものだと話した。 2024年度は4つのテーマが目立った。地球環境問題とSDGs、教育、労働、日本文化だ。 地球環境問題とSDGsに関する出題は定番化しつつある。出題パターンもさまざまで、正誤問題や記述問題など、近年増加傾向にある出題形式にも目を向けたいという。教育をテーマにしたものでは、海城が複数の資料を提示し、大学共通テストにおいて「記述式問題を導入することが検討された際に、多くの人が『公平性が損なわれる』と考えたのはなぜか」ということについて、190文字以内で説明させる問題を出題した。 問題点や課題、可能性について、受験生に意見をまとめさせる論述形式の出題が近年増加傾向にある。この背景には、コロナ禍を通じて「正解はひとつではない」ことを痛感させられる場面が教育現場であったと考えられるほか、知識の多寡ではなく、入学する生徒の思考のプロセスを評価したい、そして生きる力や学び続ける力を養っていく中で、今後変わりゆく大学入試にも対応できるようにしたいという教育者のメッセージが存在していると考えられる。 つまるところ、学習習慣として日頃から「はてな」をどれだけ意識できるかが重要だという。「どうしてロシアはウクライナに侵攻を開始したのか?」「どうしてイスラエルとパレスチナは衝突するのか?」といった、テレビの画面越しに入ってくる情報から「なぜ?」を意識する。この習慣化が大切なのだ。 一方で、目先の時事問題に振り回されないようにすることも大切であると強調する。それらを題材にしても、土台となる基礎的な知識がなければ解けないからだ。社会は他教科に比べて積み重ねが大切な科目であり、普段のテストをおろそかにせず、一定のリズムを持って学習する必要性を語っていた。 理科:「それがあってから今年で何年目」で扱われそうな出来事に注目 最後に理科責任者の織家聖先生が登壇した。 理科でも時事問題が多く出題された。コロナ禍には感染症に関する問題が多く出題されたが、それにも増減がある。2022年度はコロナ関連の問題が増えたが翌年は減り、2024年度はまた増えた。筑駒ではパルスオキシメーターの問題が出題された。 行動制限は解除されたとはいえ、感染症に終わりはないので、今後も要注意のテーマといえよう。感染症に関連して、人体や予防対策に関することを問われることもあるので、それらにも目を配りたい。 また、2023年度は関東大震災から100年だったことから地震に関する問題がたくさん出された。今後も「それがあってから今年で何年目」という問題は出されそうで、2024年はアメダス運用から50年なので、来年度の入試ではそのあたりにも注目だ。 そしてまた、2024年度入試では「暑さ」に関する問題も多かった。定番のフェーン現象のほか、開智では冷感シーツといった身近なものを取り上げる問題が出た。 このような身近なものを扱った問題は、ほかでも多く出ている。よって、家庭でそういったことに関する会話も日常的にあるといいだろう。理科の学習で必要なのは、知識や解法を覚えることはもちろん、原理原則を理解したり、実際に観測や実験ができたりすると理想的だろう。
早稲田アカデミーの入試報告会に参加して
とにかく参加者の人数が多いことに圧倒された。大きなスクリーンも2つ設置され、非常に規模の大きい会という印象だ。入試問題分析解説では「こういう問題が出題されるので、早稲田アカデミーではこういう対策をします」という、塾として何に取り組んでいるかを伝えるシーンが多く、保護者にとっては知りたい情報を提供してもらえる場だったはずだ。早稲田アカデミーといえば面倒見のよさで知られるが、報告会も保護者に寄り添った内容であった。
ダイヤモンド教育ラボ編集部