所属する“会社らしさ”を説明できるか? 主体的な社員が集まる組織の特徴
「らしさ」のある組織では社員が自然と質のよい「壁打ち」を行う
「らしさ」のある組織では、社員が自律的に行動しやすくなることに加え、自然と上司と部下、同僚間の壁打ちが行われやすくなります。「らしさ」の中にはその組織が大切にしている価値観が含まれます。それ自体が他社と差別化する競争優位性として位置付けられることから、「らしさ」を意識した壁打ちは、新たな商品やサービスを生み出す際にも自然と競合と異なる特徴を考えたり、実装したりすることに寄与する効果があります。 一方で、「らしさ」が共有されていない組織の壁打ちは数字ありきのものになる傾向があります。売上、利益、シェア、顧客数、訪問数......。 もちろんこれらも大切な指標ではあるのですが、こうした数字のみに焦点を当てた壁打ちは競争優位性を生み出すどころか、数字的に魅力がある市場であればなおさら競合も数字を意識して論理的にアプローチしてくることを踏まえると、競争を回避するどころかむしろ競争に巻き込まれていくリスクを生じさせます。
「らしさ」の存在は心理的安全性を高める
「らしさ」の存在は社員や関わる人の心理的安全性を高めることにもつながります。心理的安全性の高い職場は、社員が思ったことを気軽に発言したり、上司や同僚に相談できるばかりか、考えていることを少しだけトライしてみて、その結果をもとに周囲にプレゼンテーションできたりすることから、結果的に生産性が向上するだけでなく、イノベーションを生み出しやすくなります。 この心理的安全性を高めるうえでも「らしさ」の存在は重要な要素となります。組織が何を大切にしているのか、ということを明確に示すことは、社員にとってむしろ自由度が高まることになります。ルールは最小限にし、「らしさ」を共有するスタイルのマネジメントこそ、社員が思い切り仕事をできる環境をつくり出すのです。 以前、米国のマリオット等で長くホスピタリティ教育に従事された方のお話を聞く機会がありました。その際に「最高のサービスはどのように生まれるか」という話題になったのですが、「『こうしなさい』『ああしなさい』という教育では一定のサービス品質には届くけれど、最高のサービスには至らない。 最高のサービスはむしろ逆で、大きな価値観としてのそのホテルらしさをしっかりと伝えたうえで、これだけはやってはいけない、というタブーを明確にし、残りを余白として残しておくことで生まれる」とのことでした。 前者のアプローチよりも、後者のアプローチのほうがホテルスタッフの裁量や判断の自由度が高まります。「らしさ」を明確にすることで組織の心理的安全性を高め、余白の中で社員に思い切り仕事をしてもらう。こうすることで組織の生産性だけでなく、働く人の意欲の向上にもつなげることができるようになるのです。
「らしさ」の言語化ができているか
今は多くの企業がミッション、ビジョン、バリューを掲げています。重要なのはそれらをお飾りにしないために「言語化」するプロセスに社員を巻き込むことです。ここでいう言語化とは、結果としてこうなったよ、うちが大切にするのはこれだよ、と社員に示すのではなく、 ・それってどういうこと? ・自分の言葉で説明すると? といった問いを立て、メンバー一人ひとりがミッション・ビジョン・バリューを自分事とするアプローチです。 言語化することで自社の「らしさ」がより明確になり、自分たちの行動指針として自分事化することがでます。また組織としても主体性と一体感を持って行動することができるようになるのです。
三坂健(株式会社HRインスティテュート代表取締役社長)