目的は“人間界への移住(楽しそうだから)”、吹替えは関西弁…バットマン俳優が36年ぶりに演じる“ビートルジュース”とは何者だ?
『チャーリーとチョコレート工場』(05)や『アリス・イン・ワンダーランド』(10)など、唯一無二の個性が炸裂した世界観で映画ファン以外からも熱狂的な支持を集めるティム・バートン監督。キャリア初期の傑作の一つ『ビートルジュース』(88)の最新作『ビートルジュース ビートルジュース』が9月27日(金)より日本公開を迎える。 【写真を見る】名優マイケル・キートンがほぼアドリブで怪演!?相手役は当時16歳の美少女女優 本作の主人公“ビートルジュース”は、インパクト抜群の見た目から、ハロウィンのコスプレの定番であり、USJのアトラクションにも登場するなど、世界中で人気を集めるキャラクターだ。近年ミュージカル版がつくられ、36年ぶりの最新作が製作されるほどの根強い人気は、いったいどのような点にあるのだろうか。そこで本稿では、最新作をさらに楽しむために前作『ビートルジュース』のおさらいも兼ねながら、ビートルジュースの正体にたっぷりと迫っていこう! ■USJのショーでおなじみ!SixTONESのジェシーも演じた「ビートルジュース」は世界的人気者! バートン監督がまだ30歳のころにメガホンをとった『ビートルジュース』は、のどかな郊外の町に佇む一軒のお屋敷を舞台に繰り広げられるハイテンションホラーコメディ。製作費は1500万ドルと低予算ながら、アメリカでは興行収入ランキングで4週連続No.1に輝くなどスマッシュヒットを記録し、第61回アカデミー賞ではメイクアップ賞を受賞。日本で最初に劇場公開されたバートン作品でもあり、一躍バートン監督の名を世に知らしめた、まさに“原点”と呼ぶべき一本である。 マイケル・キートンが演じたビートルジュースは、“人間怖がらせ屋(バイオ・エクソシスト)”を自称し、600年近く霊界をさまよい、やたら陽気で女性が大好きなお調子者という、超絶うさん臭いキャラクター。普段は死後の世界にいるのだが、名前を3回呼ばれると人間界に姿を現すことができ、人間界に移り住みたいがために人間と結婚することを目論んでいる彼は、いまかいまかと名前が呼ばれるのを待っているのだ。 この白塗りのメイクにボサボサの髪型、白黒のシマシマジャケットを身にまとったインパクト抜群のビジュアルで、たちまち世界的人気キャラクターに上り詰めたビートルジュース。しかも、スタンダップコメディアン出身であるキートンの才能が発揮され、劇中のセリフの大半がアドリブだったというのだから驚きだ。日本語吹替版では、西川のりおが関西弁で演じているが、アドリブで自身のギャグ「ツッタカター」を入れても違和感のないほどのキャラクターの強さ。キートンは、この怪演がきっかけとなって一躍スター俳優の仲間入りを果たし、再びバートン監督と組んだ「バットマン」シリーズで不動の代表作を獲得することとなる。 ビートルジュースは、映画公開の翌年にアニメ化、バートン監督の人気が不動のものとなる1990年代には、「ユニバーサル・スタジオ」のショーの定番キャラクターとして親しまれるようになる。日本でも「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」が誕生すると、「ユニバーサル・モンスター・ライブ・ロックンロール・ショー」のファンキーなDJとして存在感を発揮。映画を知らなくても、その姿に見覚えのある人は多いのではないだろうか。 さらに映画の公開から30年が経った2018年にはミュージカル版が製作され、2019年にはブロードウェイで上演されるなど、その人気は衰えていない。コロナ禍をまたぐように世界各国で上演ツアーが現在も続けられており、昨年の夏に上演された日本版では、「銀魂」シリーズや「今日から俺は!!」の福田雄一が演出を担当し、SixTONESのジェシーがまさかのビートルジュース役に抜擢。ふざけ続けるキャラクターを見事に演じきり好評を博した。 そして、バートン監督による待望の最新作『ビートルジュース ビートルジュース』では、36年ぶりにキートンがビートルジュースとして堂々のカムバック!リディア役を演じたウィノナ・ライダーと、その母親のデリア役を演じたキャサリン・オハラも前作から続投し、新キャストとしてバートン監督が手掛けたNetflixシリーズ「ウェンズデー」のジェナ・オルテガが登場。“ティム・バートンワールド”を知り尽くしたキャスト陣に、モニカ・ベルッチやウィレム・デフォーといった超個性派俳優が加わるとなれば、さらに魅力が爆発すること待ったなしだ! ■死後の世界の問題児が蘇り、大騒動を巻き起こす! ここからは、前作『ビートルジュース』の物語を振り返っていこう。新婚のメイトランド夫妻(アレック・ボールドウィン、ジーナ・デイヴィス)は、交通事故で命を落とし、幽霊となって家に帰ってくる。しかし家の外に出ることができない2人は屋根裏部屋で過ごすこととなり、やがて家にはニューヨークからディーツ一家が引っ越してくる。金に汚い彼らをなんとかして追いだそうと企てるメイトランド夫妻は、ひょんなことから人間を追い出すビートルジュース(マイケル・キートン)の存在を知り、死後の世界のケースワーカーの忠告を無視して彼を呼びだしてしまう。 メイトランド夫妻に呼びだされて墓のなかから蘇ったビートルジュースは、言葉巧みに夫妻をたらし込もうとするのだが、そのあまりの胡散臭さから夫妻に依頼を取り消されそうになってしまう。しかし時すでに遅し。蘇ったのをいいことに、勝手気ままにディーツ一家を脅かし、挙げ句の果てには一家の娘リディア(ウィノナ・ライダー)からの依頼しか受けないとヘソを曲げてしまう。そんなリディアに助けを求められた彼は、自身と結婚することを条件に持ちかけ、さらなる大騒動を巻き起こしていく。 どんなトラブルもこじらせてしまう超問題児であるビートルジュースだが、ほかの死後の世界のキャラクターと比べて、圧倒的な力を持っているのもポイントだ。一見ふざけているようにも見えるが、人間を思うがまま操ることができ、“人間怖がらせ屋“としては相当な実力。弱点はそのテキトーな性格と、「ビートルジュース」ともう一度3回呼ばれてしまうと、契約破棄となり元いた世界に戻されてしまうことだろう。 そして、この強烈なキャラクター性と反して、彼の内面がわかる描写が少ないのも特徴である。本名は“ビートルジュース(Beetlejuice)”ではなく、英語での発音がよく似ている“ベテルギウス(Betelgeuse)”であること、死後の世界のソーシャルワーカーのジュノ(シルヴィア・シドニー)の元助手であること、ペストが流行した時代を知っていて、『エクソシスト』(73)を167回観たということ以外、前作の劇中で彼のバックグラウンドについて掘り下げられることはない。内面がまったく見えてこないからこそ、ただただこざかしいのに、どうにも憎めない。確実に良いやつではないけれど、悪いやつと切り捨てることもできない。そんなキャラクター性がいまもなお人気を集めている理由の一つなのだろう。 最新作『ビートルジュース ビートルジュース』では、何世紀にもわたり、死後の世界の倉庫に身体をバラバラに封じ込められていたビートルジュースの元妻、ドロレス(モニカ・ベルッチ)が登場する。ドロレスはビートルジュースに復讐したい因縁があるらしく執拗に探し回るが、一体どんな過去があるというのか…。 ■ティム・バートンの世界観は『ビートルジュース』から始まった! 不気味で不穏でダークな世界観ながら、ユニークな登場人物たちがどこか愛らしく、エンタテインメントとしての魅力が尽きないことが、いまではすっかり定着したバートン監督作品の最大の持ち味であろう。『ビートルジュース』はその原点とだけあって、作品全体を取り巻く雰囲気から衣装や美術、メイキャップ、さらにはクリーチャーの造形に至るまで、バートン作品の源流になったといえる描写がそこかしこに見受けられる。 『チャーリーとチョコレート工場』を思わせる強烈なキャラクターやギミック、時代を経て蘇るプレイボーイというビートルジュースの特徴は『ダーク・シャドウ』(12)を連想させるし、なによりもクライマックスの降霊会のシーンで見られる死霊の花嫁姿は『ティム・バートンのコープス・ブライド』(05)を想起させるインパクト。屋根裏部屋の模型の墓標やストライプのジャケットからは、バートン監督が製作総指揮を務めたハロウィン映画の傑作『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)を思い出さずにいられない。 そんなバートン監督ファンにはワクワクが止まらない“原点”を、36年の時を経てさらにパワーアップさせた最新作『ビートルジュース ビートルジュース』は、“原点回帰”であると同時にティム・バートンワールドの集大成となっていることだろう。8月23日(金)から全国10劇場のドルビーシネマでは、前作『ビートルジュース』が復活上映される。来たる最新作に備え、この機会に大スクリーンで“原点”に触れてみてはいかがだろうか! 文/久保田 和馬