生物の絶滅は「ホモ・サピエンスが関与」したからなのか…「唯一の生き残った人類」に突きつけられた戦慄の問題
新生代は、今から約6600万年前に始まって、現在まで続く、顕生代の区分です。古生代や中生代と比べると、圧倒的に短い期間ですが、地層に残るさまざまな「情報」は、新しい時代ほど詳しく、多く、残っています。つまり、「密度の濃い情報」という視点でいえば、新生代はとても「豊富な時代」です。 【画像】猿人からサピエンスに至るまでの人類の足跡…非常に高い生殖能力で繁栄か マンモスやサーベルタイガーなど、多くの哺乳類が登場した時代ですが、もちろん、この時代に登場した動物群のすべてが、子孫を残せたわけではありません。ある期間だけ栄え、そしてグループ丸ごと姿を消したものもいます。 そこで、好評の『生命の大進化40億年史 新生代編』より、この時代の特徴的な生物種をご紹介していきましょう。前々回、前回と初期人類から現生人類に至る進化の過程を、リアルなカラーイラストとともに概観してきました。今回は、そうした人類の唯一の生き残りである「ホモ・サピエンス」の陰の側面を見ていきたいと思います。私たちも考えたい「いまの問題」でもあります。 *本記事は、ブルーバックス『カラー図説 生命の大進化40億年史 新生代編 哺乳類の時代ーー多様化、氷河の時代、そして人類の誕生』より、内容を再構成・再編集してお届けします。
寒冷化した地球の海を生き抜いたカイギュウ「ハイドロダマリス」
人類は文明を築き、多くの生物を滅ぼしてきた。 そうした“絶滅させた生物”の一つに、更新世から命脈を保っていた、ある動物がいた。例えば、「ハイドロダマリス(Hydrodamalis)」というカイギュウ類がそれだ。中新世後期の北海道は海の底にあり、その海に生息していた。 ハイドロダマリスの属名をもつ種は複数存在し、北海道だけではなく、山形県や茨 城県、千葉県、神奈川県、長野県などからも発見されている。 こうしたハイドロダマリスの仲間と思われる化石が、札幌市を流れる豊とよ平ひら川がわの河床から発見された。種小名までは特定されていないものの、ハイドロダマリス属に分類される可能性が高いため、学術上は「ハイドロダマリス属の一種」を示 唆する「Hydrodamalis sp.」と表記されることが多い。一般的には、「サッポロカイギュウ」の通称で知られる。 サッポロカイギュウの全長は7メートルに及んだ。「大型である」ということは、サッポロカイギュウだけではなく、ハイドロダマリスの仲間たちに共通する特徴でもある。 基本的にからだのサイズが大きければ大きいほど、体内の熱は逃げにくい。そのため、ハイドロダマリス属のカイギュウたちは、とくに寒冷な海域を好んでいたとみられている。実際、サッポロカイギュウをはじめとするハイドロダマリスの仲間たちの化石は、ロシアではベーリング島(その名の通りベーリング海の島だ)、アメリカのアラスカなどでも見つかっている。先ほど挙げた日本の道県名にも、より暖かい西日 本は含まれていない。 ハイドロダマリスの仲間たちが登場するよりも少し前、太平洋北部にはミオシーレンとさほど変わらぬ“普通”サイズのカイギュウ類がいたことがわかっている。当時はまだ温暖な気候だった。寒冷化に転じる気候とあわせて、“普通サイズのカイギュウ類”が姿を消し、ハイドロダマリスの仲間が台頭していった。 サッポロカイギュウは、そうしたハイドロダマリスの仲間たちの中でも初期の種である。まさにカイギュウ類の進化の歴史において、"転換点"ともいえる存在として注目されている。 その後、サッポロカイギュウは滅びたものの、ハイドロダマリスの仲間は北太平洋で長期にわたって生息し続けることになる。北方海域を好んで生息していたハイドロダマリスの仲間の一つが、サッポロカイギュウであり、そして、「ハイドロダマリス・ギガス(Hydrodamalis gigas)」だった。