トランプの圧力にも屈せず 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』アリ・アッバシ監督は“無敵の挑戦者”
世界中で「最もヤバい大統領」とも言われたドナルド・トランプの若き日を描いた作品『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』が、1月17日(金) より公開される。 青年期のトランプと、彼を導くことになる悪名高い弁護士ロイ・コーンの関係を描くという、誰もが二の足を踏む作品を映像化したのは、イラン系デンマーク人のアリ・アッバシ監督。代理母となったシングルマザーを襲う恐怖を描いた長編デビュー作『マザーズ』で注目を集めると、2作目の映画『ボーダー 二つの世界』でカンヌ国際映画祭のある視点部門グランプリを受賞。そして、3作目『聖地には蜘蛛が巣を張る』では、イラン・マシュハドで16人の娼婦が殺害された実際の事件を題材に取り上げ、アカデミー賞のデンマーク代表作品に選出されるなど話題の監督だ。 本作の製作陣は、有名な実在人物の本質を描くとあって、偏見や個人的な主張に左右されることなく複雑で人間性に富んだ人物を描き出せる、怖いもの知らずの映像作家を望んでいた。そこで白羽の矢が立ったのが、他に類を見ない斬新な切り口で既にその才能を発揮していたアッバシ監督だった。 幼少期をイランで過ごしてヨーロッパに移住したアッバシ監督は、アメリカの政界に興味がなく、ましてやトランプとロイの濃密な関係などまるで知らなかったそうで「エスカレーターを下りながら大統領選出馬を表明したあの有名な動画を見て初めてトランプを知ったが、その時に興味深い人物だと思った。その後、本作の脚本を読んで、ロイにも興味をそそられた」と明かす。 脚本家のガブリエル・シャーマンが、アッバシ監督のコペンハーゲンの自宅を訪ねたのは2019年春のこと。ふたりは1週間かけて作品について話し合い、アイデアを出し合って脚本を改訂した。「ドナルドという人間形成にはふたりの男親、実父のフレッドとロイの影響があるというのが製作者側の基本構造だった。けれど、ドナルド・トランプのような難解極まりない独自の哲学を持つ人間を描くなら、例えば老いや自己愛、不安定さのような、別角度からの細かい視点が必要だと感じた。そういう特性も、イデオロギーに引けを取らない大事な要素だからね」と、アッバシ監督は鋭い分析を入れながら、並々ならぬこだわりを見せた。 さらに、アッバシ監督の脳裏にはアカデミー賞を受賞したスタンリー・キューブリック監督の歴史大作『バリー・リンドン』が真っ先に浮かんだという。アイルランド人バリーが、18世紀のヨーロッパ上流社会で成り上がろうとする作品だが「この映画を持ち出すのは意外だろうが、寄る辺が何もないからこそ、人々の賞賛や環境をがむしゃらに吸収して社会的地位を上りつめるバリーは、まさにトランプだと思ったよ」と評す。トランプ本人から訴訟をちらつかされ、全米公開時には上映阻止の圧力まで受けたアッバシ監督。それでもなお、政治と深く結びついた映画を作ることの重要性を貫き通す彼は、まさに映画界の“無敵の挑戦者”であり、その揺るぎない信念と大胆さが、時に権力者さえも震え上がらせる存在感を放っている。 <作品情報> 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』 2025年1月17日(金) 公開