苦しんで、苦しんだ末につかんだ全国切符…京都橘が東山をPK戦の末に下して2連覇達成!!:京都
[11.10 高校選手権京都府予選決勝 東山高 0-0(PK1-4) 京都橘高 サンガスタジアム by KYOCERA] 【写真】影山優佳さんが撮影した内田篤人氏が「神々しい」「全員惚れてまう」と絶賛の嵐 苦しんで、苦しんだ末につかんだ全国への切符だった。第103回全国高校サッカー選手権・京都府予選の決勝は、新人戦と高校総体予選を制して今大会で府内3冠を狙う東山高と、2年連続の全国出場を狙う京都橘高が激突。試合会場となったサンガスタジアム by KYOCERAに駆け付けた約2000人の観客が見守る中、PK戦の末に京都橘が勝利して歓喜の瞬間を迎えた。 決勝戦という何より結果が求められる試合の位置付けや緊張感、そして両チームのスタイルもあり、互いに堅実な守備から攻撃を繰り出す試合展開となった。東山は5分にDF沖村大也(3年)のロングスローからDF中山和奏(3年)が放った最初のシュートを皮切りに、次々とチャンスを作り出す。京都橘のDF宮地陸翔(3年)が「もっとロングボールを使ってくるのかと思ったけれど、予想以上につないできた」と話したように、パスで攻撃を組み立てながらサイドやバイタルエリアで起点を作ってゴールを目指す。32分にはMF吉田航太朗(3年)が左サイドからドリブルで相手守備網へ切れ込んでエリア内へパスを送り、それを受けたFW山下ハル(3年)がシュート、33分にはセットプレーから再び山下が今度はフリーとなって頭で狙ったが、いずれも京都橘GK平誠都(2年)が好セーブを見せる。 後半も東山が攻撃を仕掛ける。42分に山下が右サイドを突破して、折り返したこぼれ球をMF辻綸太郎(3年)が狙ったがポストに嫌われた。後半はシュートまで持ち込む回数が減ったものの、終了間際にロングスローの流れからDF津崎翔也(3年)が頭であわせるなどチャンスは作ったが、決めることができない。延長戦でも前半4分に右サイドの沖村からの折り返しを山下がフリーでシュートを放つ絶好機を迎えたが、GK平の好反応に防がれてしまう。試合後、福重良一監督が「一年間、課題だった決定力を克服できなかった」と話したように、チャンスは作るが決めきることができない。4回戦の龍谷大平安高や準決勝の京都共栄高との戦いで見られた展開が、ファイナルの舞台でも発生してしまった。 一方の京都橘は前半がシュート3本、後半は1本と攻撃で苦労した。最終ラインや中盤が後ろでボールを持った状況からパスをつないで前進できる場面が少なく、長身FW伊藤湊太(2年)や機動力のあるFW高橋優(3年)を生かしたロングボールも相手に対応される場面が見られた。数少ないチャンスも、後半終了間際にロングスローのこぼれ球からMF桐原惺琉(3年)が放ったシュートは枠を捕らえることができず、我慢の展開を強いられる100分間(40分ハーフ、延長戦10分ハーフ)だった。 それでも守備で、特に自陣での攻防では強さを発揮した。中盤は上下動やスライドで足を動かし続け、最終ラインは押し込まれた局面で耐久力を発揮。ピンチの場面ではGK平が好セーブを連発して失点を許さない。 中でも効いていたのが宮地とDF増井那月(3年)だ。二人とも元々は攻撃的な選手だったが、前半戦で失点が続いた状況を改善すべく後半戦から宮地はCBへ、増井は右SBへポジションを移した。当初は「なんでやねん、みたいな気持ちもあった」(宮地)と振り返るが「DFのポジションでもチームを引っ張ることなど、できることはいくつもあると気付いた。自分の役割をこなして、チームの為になればと考えて取り組みました」(宮地)、「FWで出たい気持ちもあったけれど、第一に考えるのはチームのこと。自分のできることを精一杯やろうと思った」(増井)と苦戦が続くチームの立て直しのため、求められたポジションで最善を尽くした。 決勝戦でも宮地は守備対応や空中戦で一歩も引かないプレーを見せ、プレーが途切れた際はチームメイトに声をかけ続けてキャプテンとしてチームを引っ張った。増井も右サイドの攻防で身体の強さを見せて相手の侵入を食い止め、攻撃に出て行けるようになった時間帯では積極的にドリブルを仕掛けている。米澤一成監督は「彼らがDFの選手でないことはわかっているが、監督としてチームが勝つための方法を模索しないといけなかった」と苦渋の決断の末のコンバートだったことを明かしており、実際にその効果は大きかった。そうした取り組みの成果もあり、なんとか無失点で前後半や延長戦を戦い抜き、スコアレスでPK戦へと突入する。 PK戦では先攻の京都橘が1人目と2人目を成功したのに対し、後攻の東山は1人目のキックがクロスバーを叩き、2人目のキックはGKに止められる。互いに3人目は成功して迎えた4人目。京都橘はMF執行隼真(3年)が成功させて、PK戦を4-1で制した。 勝った京都橘は2年連続で全国大会出場へ。今年はプリンスリーグ関西1部で残留争いを強いられており、夏には部員の不祥事が起こり、本来は強化のためにフェスティバルなど遠征へ出向く時期に活動自粛が続くなど、苦しいシーズンを過ごしている。「サッカーをやらせてもらえることへの感謝を改めて認識して、サッカー部としてのあり方も見つめなおす時間になりました」(米澤監督)ということを経て挑んだ後半戦、そして選手権予選だった。苦しんで、苦しんだ末につかんだ全国への切符。「ここから全国大会までの期間が、一番成長できる」(米澤監督)。京都府優勝に貢献した選手も、できなかった選手も、全国までの約1か月半という限られた時間で自分たちにできることに向き合い、成長を誓って、憧れの舞台へと挑む。 (取材・文 雨堤俊祐)